キリスト論:キリストの死と復活 おかしなうわさ、ねつ造、しかし真実

   クリスチャン人生論 ⑥
 
ユ・スンウォン デトロイト韓国人連合長老教会 主任牧師


情報が何人かの人を通過するうちに、誤まって伝わることがよくあります。AD51年頃、アテネでパウロについての誤ったうわさが流れました。「エピクロス派とストア派の哲学者たちも幾人かいて、パウロと論じ合っていたが……ほかの者たちは、『彼は外国の神々を伝えているらしい』と言った。パウロがイエスと復活とを宣べ伝えたからである」(使 17:18)。
では、パウロのうわさは、どのように誤って伝わったのでしょうか。

根拠のないうわさ-イエスとその妻アナスタシス
パウロが「外国の神々を伝えている」といううわさが立ちました。「外国の神々」を伝えることは、ユダヤ人であるパウロにはありえないことです。「あなたは、わたしのほかに、ほかの神々があってはならない」(出 20:3)とあるように、神は唯一なる方です。ルステラで足のきかない人をパウロがいやしたとき、人々は彼を神と誤解していけにえをささげようとしました。すると、衣を裂いて嘆きながらそれを止め、唯一神である神を教えたのが、パウロです(使 14:8~18)。
それなのに、複数形で「神々」を伝えているとは……。ギリシャ語原文を見るとさらに不愉快になります。「外国の神々」と訳された“クセノン ダイモニオン”(xe,nwn daimoni,wn)の形容詞“クセノス”(xe,noj)は、「外国の」とか「おかしな」という意味であり、“ダイモニオン”は、福音書でおもに「悪霊(demon)」と訳されている単語です。
ですから、福音書の用語をそのまま書き写すとすれば、パウロは「聞き慣れない悪霊たちを伝えている」ということになります。かなり気分が悪かったことでしょう。「ダイモニオン」を伝えていると誤解されるのも不愉快でしょうが、徹底した唯一神論者である彼が「悪霊たち(複数形の表現)」を宣べ伝えているとうわさされたのですから、非常に不愉快であったに違いありません。
『使徒の働き』はその理由を「パウロがイエスと復活とを宣べ伝えたからである」(14:18)と説明しています。ギリシャ語原文を見ると、「珍しい悪霊たち」と複数を使った理由が明らかになります。彼が「イエス」と「アナスタシス(avna,stasij)」を伝えたからです。「アナスタシス」とは「復活」という意味です。
ギリシャ語の名詞には男性、女性、中性という性別があり、「アナスタシス」は女性名詞です。ギリシャ語原文を読むと、パウロが男性の悪霊であるイエスと、女性の悪霊であるアナスタシスを一緒に伝えているかのように見えます。当時のギリシヤ-ローマ神話ではよくあることでした。ゼウスが妻ヘラと一対になっているようにです。
どうしてこのように認識されたのでしょうか。パウロがイエスだけでなく、イエスの復活について、いつも一緒に伝えたからです。「イエスの復活」についてくり返し話したので、イエスと復活という2つの神を伝えていると誤認されたのです。1世紀の福音にキリストの復活信仰が必須であったことを示す歴史的なハプニングです。

よみがえった兄のゆえに
確かに死んで、そのからだを墓に納めておいたイエスを、神がよみがえらせました。そして、そのイエスは、弟子たちに現れました。女神アナスタシスを伝えていると誤解されるほど、イエスの復活について強く訴えたパウロは、AD55年頃、『コリント人への手紙』でその復活の目撃者をこのように列挙しています。「キリストは、聖書の示すとおりに、私たちの罪のために死なれたこと、また、葬られたこと、また、聖書の示すとおりに、三日目によみがえられたこと、また、ケパに現れ、それから十二弟子に現れたことです。その後、キリストは五百人以上の兄弟たちに同時に現れました。その中の大多数の者は今なお生き残っていますが、すでに眠った者もいくらかいます。その後、キリストはヤコブに現れ、それから使徒たち全部に現れました」(Ⅰコリ 15:3~7)。
信仰者ではない第三者の立場から、事実を把握する目的でこの記録を読むと、戸惑います。ひとりであれば幻でも見たのであろうと推測できます。しかし、12人が同時に幻を見ることはできません。しかも、500人以上の人が同時に幻を見る確率はほとんどありません。パウロがこの手紙を書た時点でも、250人以上の目撃者が生存していると述べています。
ここに言及された人々は、みなイエスが死なれる時に逃げて隠れていた人々です。そんな人々が再び世に出てきて、大胆に福音を伝えるようになりました。彼らが変えられた理由として考えられるものは、ほかにありません。よみがえらえたイエスを目撃したこと以外に、彼らのこの突然の変化を説明できる方法はないのです。特に、パウロがこの手紙で言及していなかったなら、その変化の理由がどうしてもわからなかった人物が、イエスの実の弟ヤコブです。
イエスの弟たちは、イエスに友好的ではありませんでした。イエスが狂ったと考えて連れ戻しに来たこともありました(マル 3:20~21)。ヨハネの福音書には、「兄弟たちもイエスを信じていなかったのである」(ヨハ 7:5)と具体的に記されています。そのような弟たちが、殺気に満ちたエルサレムで、約束の聖霊を待っていた120人の弟子たちの中に含まれていました(使 1:14)。そのひとりであるヤコブは、割礼の問題で激しく論争していたエルサレム会議で、バルナバとパウロの証しの後にすべてを総括する最終発言を行い、ペテロ以上の権威を持つ最高指導者の姿を示しました(使 15:13~21)。パウロがエルサレムに行ったとき、その場にいて代表をしていたのも「主の兄弟ヤコブ」(ガラ 1:19)であり、パウロは彼を「柱として重んじられている」(ガラ 2:9)指導者であると述べています。1世紀のユダヤ人歴史家のヨセフスは『ユダヤ古代誌』という書の中でヤコブの殉教について記しています。「(大祭司)アナヌスは……キリストと呼ばれるイエスの兄弟ヤコブとほかの兄弟たちを全議会の前に立たせ、律法違反者として彼らを訴え、石打ちにして殺すために送った」
イエスの弟でありながらイエスに対して懐疑的であったヤコブが、殉教するほど徹底した擁護者に変わった理由に対する歴史的ヒントは、ただ一つだけです。それはパウロの証言です。「キリストはヤコブに現れ(た)」(Ⅰコリ 15:7)。このひと言がすべてを説明しています。彼は、復活したイエスに出会ったのです。

根拠のないねつ造と真実
客観的な第三者の立場から、史料としてのパウロの手紙を読んで判断を下してみましょう。第一に、パウロは正気ではなかった。第二に、彼がねつ造して嘘をついた。第三に、死んだイエスが復活したのを目撃したという記録は事実である。それ以外の可能性は考えられません。しかし、パウロの手紙をすべて読んだ人なら、第一と第二の可能性は全くないということが、すぐにわかります。
だとすれば、「事実」しか残っていません。イエスは三日目によみがえられ、弟子たちにご自身を現し、一定期間、彼らとともにおられました。イエスの復活は、確固とした事実です。
よみがえられたイエスに出会った当時の人々の口を閉ざすことのできる方法は、一つしかありませんでした。とても簡単な方法です。墓の入口に置かれた重さ約2トンもある石を取り払い、その中で腐敗したイエスのからだを全世界に公開することです。逆の証拠こそ、最高の証明方法だからです。「見なさい。ここにイエスのからだがある!」と。
しかし、祭司たちもローマ帝国も、そうすることができませんでした。イエスのからだを納めてあった墓にイエスのからだがなかったからです。復活に対して反論する唯一の道であるイエスのからだがないため、うわさが広がり、民が扇動されていくのを見ながらも、なすすべがなかったのです。
窮地に追い込まれた宗教指導者たちは、政治家たちの背後で“組織的なねつ造”をしました。「『“夜、私たちが眠っている間に、弟子たちがやって来て、イエスを盗んで行った”と言うのだ。……』そこで、彼らは金をもらって、指図されたとおりにした。それで、この話が広くユダヤ人の間に広まって今日に及んでいる」(マタ 28:13~15)。ここで、「今日」とは、この内容が書かれた『マタイの福音書』が記録された時期である、AD70年の初めを意味します。
彼らがねつ造した盗難説が事実であったなら、弟子たちは死の危険を冒して墓に侵入し、イエスのからだを盗んでどこかに隠しておき、自分たちが作り上げた嘘のために殉教までしたということになります。しかし、生きるために作り上げた嘘のために死ぬような人はいません。そのようなおかしな工作は、「からの墓」という否定できない事実のゆえに生じたハプニングです。イエスはよみがえられました。
イエスは、初めから人間の根本的問題である死を解決するために来られました。イエスは死に勝利され、よみがえられました(Ⅰコリ 15:54~57参照)。復活のないイエスの死は、その効力を失います。ただ格好良く生きて死んだにすぎません。
イエスの死が私たちを赦して義とする贖いの効力を持つ根拠は、いのちの復活です。神は、イエス・キリストを死者の中からよみがえらせ、イエスの死が私たちの救いであり、いのちの道であることを確証されました。「なぜなら、もしあなたの口でイエスを主と告白し、あなたの心で神はイエスを死者の中からよみがえらせてくださったと信じるなら、あなたは救われるからです」(ロマ 10:9)。

イエスの弟で、イエスに対して懐疑的であったヤコブが殉教者に変わった歴史的ヒントは、一つしかありません。彼は復活したイエスに出会ったのです。

復活がないなら、イエスの死は贖いの効力がありません。キリストの死が贖いの効力を持つのは、死に打ち勝たれた復活の力のゆえです。

今後のテーマ
6月.キリスト論:キリストの死と復活
7月.キリスト論:イエス・キリストの唯一性
8月.キリスト論:イエス・キリストの品性

 

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