クリスチャン人生論 ④

   人間論:罪人と救い ああ!私はどうしたらよいのか!
 
ユ・スンウォン デトロイト韓人連合長老教会 主任牧師

ミュージカル映画として再び注目されたヴィクトル・ユーゴーの小説『レ・ミゼラブル』の主人公は、ジャン・ヴァルジャンです。聖書にも“レ・ミゼラブル”があります。その主人公はだれでしょうか。


レ・ミゼラブル、パウロ
“レ・ミゼラブル”とは、フランス語で「かわいそうな人々」という意味です。ローマ人への手紙7章24節のフランス語訳は、この「レ・ミゼラブル」の叫びで始まります。「私は、ほんとうにみじめな人間です。だれがこの死の、からだから、私を救い出してくれるのでしょうか」(ロマ 7:24)。みじめだったパウロの悩みです。「私には、自分のしていることがわかりません。私は自分がしたいと思うことをしているのではなく、自分が憎むことを行っているからです」(ロマ 7:15)。“私は自分の心もわからない。自分がなぜこうなのか、私にもわからない”というのです。しかし、パウロはその理由を知ります。「もし自分のしたくないことをしているとすれば、律法は良いものであることを認めているわけです。ですから、それを行っているのは、もはや私ではなく、私のうちに住みついている罪なのです」(ロマ 7:16~17)。「私は、自分でしたいと思う善を行わないで、かえって、したくない悪を行っています」(ロマ 7:19)。
それで、パウロは絶叫します。私は“レ・ミゼラブル”だと。自分の行動が、思いどおりにできません。からだと心が別々に動いているのです。心は燃えていても、肉体は弱いからです。頭ではわかっているのに、心がついていきません。この世で最も遠いのは、頭から胸だという言葉もあります。しかし、このように胸をたたきながら“レ・ミゼラブル”と叫んでいるのは、「律法による義についてならば非難されるところのない者」だと高言することができた人です(ピリ 3:6)。いくらパリサイ派の人でも、これほど自らを誇ることができる人は、ほとんどいなかったはずです。裏返せば、パウロはそれほど律法を守っていた人だったのです。
しかし、この完璧な律法主義者が苦悩に満ちています。「私のからだの中には異なった律法があって、それが私の心の律法に対して戦いをいどみ、私を、からだの中にある罪の律法のとりこにしているのを見いだすのです」(ロマ 7:23)。レ・ミゼラブル!「私は、ほんとうにみじめな人間です。だれがこの死の、からだから、私を救い出してくれるのでしょうか」(ロマ 7:24)。パウロがこの程度なら、私たちは言うまでもありません。これが人間の実存です。すべての人は罪人です!

ああ、なぜこれほどまでに……
神は人間を尊く造られました(詩 8:5)。人間だけを神のかたちとして造られました。しかし、自然と動物は問題がないのに、人間だけが邪悪になりました。エバは、善悪の知識の木の実を食べ、それをアダムにも食べさせました。夫であるアダムは、エバと神にその責任を転嫁しました(創 3:12)。彼らの長男であるカインは、神が自分のささげ物を退け、弟アベルのささげ物を受け取られたことを恨み、弟を殺しました(創 4:8)。
時が流れ、罪によって世が混乱すると、神は人間を造られたことを悔やまれました(創 6:5~7)。そのため、被造世界を洪水で覆い、正しいノアだけを選んで、新しい人類の歴史を始められました。神は、ノアがささげた全焼のいけにえを受け取られた後、このように語られます。「わたしは、決して再び人のゆえに、この地をのろうことはすまい。人の心の思い計ることは、初めから悪であるからだ」(創 8:21)。神は、尊く造られた人間が、救いようのない罪人になった姿を見て、嘆かれます。神による「罪人認識」です。ああ、人間がこんなことになってしまったとは!
人間の変質が、神に知られてしまいました。親がいくら良いことだけを教えようと努力しても、子どもは学んでもいない罪を犯します。ダビデも「ああ、私は咎ある者として生まれ、罪ある者として母は私をみごもりました」(詩 51:5)と告白しています。人間に“原罪”があることを認める告白です。神は人間の変質を認識されました。人間は、罪を犯さざるをえない罪人になってしまったのです!
世の哲学や快楽を追い求め、格好良く生きようとしましたが、とことん失敗して神に立ち返ったアウグスティヌスは、「人間は罪を犯さずにはいられない存在である」と定義しました。罪を犯さずにはいられないとは、義を行う能力を失ったことを意味します。つまり、罪を犯さないことが不可能な、道徳的無能力状態の告白です。
宗教改革者のルターは、自分の宗教的修行によって神の義を成し遂げようと至難の努力をしましたが、失敗しました。そして、信仰によってのみ義とされることを悟り、『奴隷意志論』を主張しました。人間は自由意志を与えられましたが、善悪の知識の木の実を食べてからは、罪を犯さないように制御できる道徳的能力を失い、罪に服従するしかない“奴隷意志”になったという意味です。「私は、ほんとうにみじめな人間です。だれがこの死の、からだから、私を救い出してくれるのでしょうか」(ロマ 7:24)。
私たちの時代にも、パウロと似たような絶叫をした人がいます。それは、韓国の性徹僧侶です。僧侶は、ふつうの人はまねできないような偉大な修行僧です。横になって眠らず、壁を見つめて座り続けて横にならない修行を、8年も行いました。また、洞窟の中で10年間隠居する超人的修行もしました。世では聖人とされるほどの人です。しかし、僧侶が1993年10月、海印寺で亡くなる前に残した詩句は、人々の首をかしげさせました。それは、「生涯、男女の群れを欺き、空からあふれる罪業は、須弥山(仏教の宇宙論にある非常に高い山)を越える」というものでした。
この詩句に当惑した仏教家は、いくつもの解釈を試み、弁証しようとしてきましたが、どれも曖昧なものにすぎません。私は、真実な修行中に人間の実存を悟った大いなる宗教家の正直な遺言だと思っています。「律法の義においては非難されるところがない」と語ったパウロの、正直な嘆きのような性格の告白に聞こえます。「私は、ほんとうにみじめな人間です。だれがこの死の、からだから、私を救い出してくれるのでしょうか!」
人間は自分の力で神の善に至ることができません。そのため、義人はひとりもいないのです(ロマ 3:10~12)。救い主を信じた後にも、いつも罪責感に苛まれるのは間違っていますが、人間の罪の性質を知る「罪人意識」は絶対的に必要です。

罪について語るべき理由
最近の世は、「罪」という単語を失ってしまいました。人本主義の心理学には、「罪」という単語がありません。単に羞恥心、恐怖、悲しみ、絶望など、否定的なことを述べるだけで、「正否」の概念については触れていません。教会でさえ、「罪」の話をしようとしません。聖徒が聞きたがらないからです。シカゴのある有名な教会では、牧師が罪についてよく話すという理由で、講壇に向かって銃を撃った人がいました。だれがこのように「罪」を嫌うのでしょうか。義人でしょうか。違います。罪をたくさん犯した人であるほど、「罪」の話を嫌うのです。
恥、恐怖、悲しみ、絶望などは、すべて罪の結果です。しかし、罪の結果と現象だけを語らせ、その本当の原因をわからなくさせるのが、悪魔の策略です。人に罪を犯させ、その罪によって苦しめた後、心の中でそれによる不満を駆り立てて、むしろ聖なる神を憎むようにさせるのです。悪魔は狡かつで政治的です。
そのため、罪の結果だけに注目するのではなく、原則にしたがって罪を攻略しなければなりません。聖書が罪の話をするのは、私たちを苦しめるためではありません。憎んでのろうためでもありません。私たちを生かすためです。これがさばきを語られる神の本心です。「わたしは決して悪者の死を喜ばない。かえって、悪者がその態度を悔い改めて、生きることを喜ぶ」(エゼ 33:11)。
いつもさばきやわざわい、耳に痛いことばかり選んで言っているようなエレミヤを通しても、神は心の内を打ち明けられます。「わたしはあなたがたのために立てている計画をよく知っているからだ。── 主の御告げ ──それはわざわいではなくて、平安を与える計画であり、あなたがたに将来と希望を与えるためのものだ。あなたがたがわたしを呼び求めて歩き、わたしに祈るなら、わたしはあなたがたに聞こう。もし、あなたがたが心を尽くしてわたしを捜し求めるなら、わたしを見つけるだろう」(エレ 29:11~13)。
罪をあからさまに扱われる神の意図は、聖徒に平安を与えることにあります。支配者層であったサドカイ人たちのように、「あなたは罪人」だと追い込み、支配しようとする政治的に脅かすためではありません。また、パリサイ人のように、気難しく周囲の人を苦しめるためでもありません。神は罪を憎まれ、罪に対しては妥協されませんが、罪人を本当に愛され、代わりに死ぬほどの愛を持っておられる方です。
神が人間の罪について語られるのは、罪人を救うためであることを忘れてはなりません。「神が御子を世に遣わされたのは、世をさばくためではなく、御子によって世が救われるためである」(ヨハ 3:17)。洪水の時はノアひとりを生かし、世のすべての人々をさばかれました。しかし、人間が「罪人であること」をあわれまれる神は、ひとりの人イエスを死なせることによって、すべての人を生かされたのです(ロマ 5:17~19、Ⅰテモ 2:4参照)。


救い主を信じた後、いつも罪責感に苛まれるのは
間違いですが、人間の罪の性質を知る
「罪人意識」は絶対に必要です。

洪水の時はノアひとりを生かし、世の人々をすべてさばかれました。しかし、今度はすべての人を生かすために、ひとりの人イエスを死なせられました。


今後のテーマ
4月.人間論:罪人と救い
5月.キリスト論:キリストの人性と神性
6月.キリスト論:キリストの死と復活

 

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