マタイの福音書の恵み78

   [マタイの福音書 13章33節] パン種で恵みのパンを作れ
 
オンヌリ教会 前主任牧師 故 ハ・ヨンジョ

イエスは、また別のたとえを話された。「天の御国は、パン種のようなものです。
女が、パン種を取って、三サトンの粉の中に入れると、全体がふくらんで来ます」(マタ 13:33)。


クリスチャンは世を変える
天の御国に対する4つ目のたとえは、パン種のたとえです。パン種のたとえは、何を意味するのでしょうか。
第一に、天の御国は、新しく生まれた人たちを通して世を変えるということです。パン種とからし種のたとえは、よく似ています。小さな種を蒔くと大きな木になった、非常に小さなパン種を入れてこねると大きく膨らんだという点です。しかし、重要な違いがあります。からし種は、ほかの何かを変えるのではなく、それ自体が成長したのに対し、パン種はほかのものを変化させたという点です。これがパン種のたとえの要点です。
3サトンの粉は、ふつう家庭でパンを作るのに使う分量ですが、それでもかなりの量です。パンがおいしそうに膨れ上がるためには、パン生地を少し取り出してパン種を入れておいてねかし、その後、生地全体にそれを混ぜて練ります。大きな小麦粉の生地にパン種入りの小さな生地を混ぜて練ると、きれいに膨らみ、それを焼いて食べるのです。
では、パン種が小麦粉の生地を変化させたとは、何を意味するのでしょうか。天の御国は、それ自体が変わるだけでなく、周りも世界も変化させるということです。パン種は、一瞬のうちに強力に相手を変えるというのです。少量のパン種が小麦粉の生地全体を一瞬のうちに変化させるように、天の御国を所有したクリスチャンは、たとえ少数でも、自分たちが暮らしている世を変化させ、新しくする力があるというのです。クリスチャンは、自分が変わるだけでなく、その人の住んでいる世界をも変えるのです。
「だれでもキリストのうちにあるなら、その人は新しく造られた者です。古いものは過ぎ去って、見よ、すべてが新しくなりました」(Ⅱコリ 5:17)。イエス・キリストを信じると、まず私たちの品性が変わります。イエス様を信じても品性が変わらないなら、そのような人は偽物です。イエス様を信じれば、必ず品性が変わります。それだけでなく、価値観に変化が起こり、物事を見る目が変わります。イエス様のように考え、行動します。
それだけではありません。天の御国を所有した人たちは、自分が神の子どもとなり、天の御国の人生を生きるだけでなく、自分も知らないうちに世を変えます。イエス様は、「あなたがたは、地の塩、世界の光です」と言われました。腐敗した世、不義と不正がはびこっているこの世で、クリスチャンは、少数で何の力もなくても、その人自体が塩なのです。塩は、大声を立てず、静かに周りを変えます。これが社会改革に対するクリスチャンの原理です。

変化の原動力はみことば
次に、パン種が持つ内容と意味について見てみましょう。小さなパン種がパン生地全体を変化させ、膨らませる原動力は、どこにあるのでしょうか。それは、パン種の繁殖力です。ここで、パン種の力とは、みことばの力、福音の力を意味します。
変化させるのは、私たちではありません。私たちのうちにおられる主です。また、私たちのうちに宿ったみことばです。うわべだけのクリスチャン、つまり、自分だけの成功、健康、祝福だけを求めるような人たちが教会に集まったとしても、世は決して変わりません。
パン種は、こねられた小麦粉の中に入らなければ意味がありません。これは、クリスチャンが世に出ることを意味します。教会は、世の中に出て行って人に会い、ぶつかり、砕かれ、分かち合い、互いに共感しなければなりません。それは簡単なことではなく、その過程でいろいろな困難もあり、損をすることもあります。時には傷ついたり、犠牲を必要とすることもあるでしょう。しかし、世を変化させるのは、私ではなく、私のうちにおられるイエス様、福音の力なのです。
私たちは、山上の説教でイエス様のみことばから、クリスチャンの人生の8つの態度について学びました。私たちが世の中で、貧しい心、つまり謙遜な心で生きれば、世は変わります。人のせいにせず、兄弟の罪、民族の罪を自分の罪として受け止め、悲しみを持って生きるとき、世は変わります。柔和とは高ぶらないことです。義に飢え渇くとは、不義や不法に抵抗することです。あわれみを施し、偽りのない人生、心のきよい人生を歩むとき、世は変わります。平和をつくる人生、つまり利己的でない人生を生き、義のために迫害されるとき、世は変わります。
イエス様の人生は、この8つの姿の中に凝縮されています。私たちは、人に説教したり、改革しようと声を高める必要はありません。まず自分自身がそのようにすればよいのです。福音は決断を求めます。福音は行動を求めます。「パン種」がなければ意味がありません。それをパン生地に練り込まなければなりません。自分の職業や歩みにおいて、何の決断もなく、安逸な考えをしている限り、決して世は変わらないのです。
変化は音もなく現れる
最後に、パン種の膨らみ方について黙想してみましょう。これは、天の御国の変化は、音もなく起こるということを示しています。からし種のたとえと似ています。変化は目に見えない、非常に小さなところから始まります。
ある医師が、周りのだれにも言わずに、どこかの地域に行き、人知れず診察の奉仕をします。すると、あるとき奇蹟が起こります。また、ある人が自分の時間を割いて毎日ある地域を訪れ、静かに人々の顔を拭き、足を洗い、服を着せてあげる働きを続けます。そのとき、変化が起こるのです。パン種の人生は、静かに変化を起こします。それで、社会宣教や海外宣教をするときには、大きな声を出したり、言い広めたり、ラッパを吹いたりすることに気をつけなければなりません。目立つことや宣伝効果に頼って働きをするのは危機です。天の御国は、決して誇張や宣伝やうわさによって生じるのではなく、静かに、そして密かに福音の力が現れるものだからです。
特に、主の働きをするときは、大きなもの、目立つことなどに誘惑されやすくなります。信徒が多く集まる教会、献金の多い教会を見て、周りの人々は「あの教会は成功した」と考えます。また、著名人のいる教会を見て、そこはすばらしいと考えます。信徒たちがどのように生きているかには関心がありません。しかし、教会が人に頼りはじめると腐敗します。神の力、祈りの力ではなく、少数の人々が世を変えるという神の方法にも拠り頼まないで、自分でも知らないうちに、著名人のお金や名声や力に拠り頼むようになるのです。
イエス様を見てください。主は決して華やかさや名声や安楽を追い求めませんでした。いつも小さなことに、また、貧しく疎外された人々に関心を持たれました。イエス様は、建物や土地には関心がなく、人々に関心がありました。主は、成功や成就のために働かれませんでした。主の目標は、十字架で死なれることで、いつもそのことを考えておられました。「わたしが去って行けば、助け主が来ます」、「心を騒がしてはなりません。神を信じ、またわたしを信じなさい。あなたがたのために、わたしは場所を備えに行きます」と言われたことばを見ると、主が常に死を考えておられたことがわかります。その死は、単なる死ではなく、苦しい十字架の死でした。そのような中でも、イエス様はすべてのことをされました。ですから、へつらう必要も、世に頼る必要もありませんでした。主はすぐに去って行かれる方だったからです。そうして、主は33歳で生涯を終えられました。
私たちは、少しでも豊かに、少しでも長く生き、少しでも多くを手に入れようとして悩みます。しかし、イエス様は手放すこと、仕えることを実践されました。私たちがイエス様を信じ、神の子となり、御国を所有し、新しくされた喜びの人生を歩みたいと願うなら、静かに世に対して目を開かなければなりません。そして、冒険と決断をしなければなりません。そうしてこそ、世を変えることができるのです。

 

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