日本CGNTV「本の旅」より
小渕朝子先生は、臨床心理士で青葉台カウンセリングルームを主宰しておられます。中高生のためのスクール・カウンセラーを経て、児童福祉施設の心理相談員としての経験もあり、心の問題を抱える人たちと深く関わってこられました。 小渕先生の共同著書、『牧会相談の実際 カウンセラーと共に考える』は、心の問題を抱える人のケアについて具体的に記された、入門的な一冊です。今回は、小渕先生に、この本についていろいろ伺ってみたいと思います。
本を出版したいきさつ 私が臨床心理士になってから、約15年が経ちます。今から7~8年前、クリスチャンで臨床心理士である仲間がいるという話を人から聞いて、偶然クリスチャンの臨床心理士の集いに行くことになり、そこで共同著者である藤掛明先生や村上純子先生など、いろいろな方と知り合うことができました。ふだんはそれぞれ別の所で活動していますが、教会やクリスチャンのために、臨床心理士として何かお役に立てることがないかという話になり、その一つとして本を書くことになりました。
福音とカウンセリングの関係性とは いろいろな考え方があるのですが、私たちの立場では「福音」は、救い、罪の赦しなど、神様にしか与えられないものととらえています。心理カウンセリングというのは、人間を対象としたもので、人間関係の向上、性格や心の悪循環を見つめ直して改善していき、人生を生きやすくする手助けをするものだと言えます。例えば、海におぼれている人がいて、浮き輪(福音)につかまれば助かるのに、何かの事情でつかまれないとします。その方が浮き輪に手が届くようにしてあげることが、心理カウンセリングだと、あるクリスチャン精神科医はおっしゃっています。つまり、相談者が、福音、あるいはイエス様に近づくのを助けるのが、心理カウンセラーの仕事だと言えます。最近では、精神科医などの専門家を訪れる勇気はないけれども、心に悩みがあり、だれかに聞いてもらいたいということで、私どもの心理カウンセラーを訪れる人も増えてきています。
牧会者が行うカウンセリングについて これはカウンセリングをどう捉えるかにもよると思います。町の美容室など、だれかに、ちょっとした相談をすることも、ある意味、カウンセリングと言えますので、そういった意味では牧師もしていらっしゃると思います。しかし、本格的な心理カウンセリングは、場所と時間を限定し、それ以外の所では絶対に行いません。守秘義務や倫理規定などの決まりもあります。牧師が心理カウンセラーのするような厳密なカウンセリングを行うのは難しいと思います。 牧師なら自分の秘密を守ってくださるという安心感から、子どもの不登校、大人のうつ病、ギャンブルなどの依存症など、世の中のいろいろな問題が牧師に持ち込まれがちですが、そのような牧会現場で、気をつけるべき点があります。まず、援助者としての自分を振り返ること、つまり、「助けたい」と思う動機は何かを確認する必要があります。自分が頼られたいとか、本当は自分が助けてほしいという思いを持っておられる方が人のお世話をしたりすることがありますので、そのような動機を見直すことが必要です。また、自分の限界を知っておくことも大切です。自分には何ができて、何ができないかを認め、全部ひとりでやろうとしないでみんなで助けるという態度が必要です。
実際の出来事を掲載した理由 実例を載せているのがこの本の大きな特徴ですが、実際に現場で何が起こっているかを、特に若い牧師や神学生の方に、一種の事例研究として見ていただきたいと思います。
専門機関への移行のタイミング 最後まで教会でケアするのではなく、あるタイミングが来たら、精神科医などの専門機関に移行させる必要が生じる場合もあります。たとえば、明らかに不眠だとか、食べられない、人の集まる所に出られないなどのケースです。タイミングとしては、いきなり専門機関を紹介されると相談者も失望するので、話をよく聞き、関係作りをした上で紹介し、それでも「見捨てることはありませんよ。これからも話を聞きますし、お祈りも続けます」という態度が良いと思います。中には、祈っているから、医者などの手を借りる必要はないと思う牧師もいると思いますが、相談者には専門のケアや薬が必要なこともあるということです。牧会者がひとりの方に縛られて、ほかの大切な働きが妨げられないようにすることを願っています。
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