キリストに立ち返る日本を夢見て

   音楽によって立たされて
 
八木山聖書バプテスト教会 音楽リーダー 大宮香織


2011年3月11日。あの日見上げた星空は、今まで見たことのない、そしてこれから先も、もしかしたら見ることのできないような、満天の星空でした。神様の創造のみわざに畏れを覚えるとともに、人間の小ささ、罪深さを思い知らされました。本当はこんなに美しい星空なのに、愚かな人間の力で、それを見えなくしてしまっていたんだということに気づかされました。そして、私自身の罪を悔い改め、もう一度主の前にへりくだって歩まなければならない、もっともっと主を見上げ、賛美しなければならないと思わされました。
けれども、当時の私は、被災した友人家族と一緒に生活をしていて、その友人たちを目の前に、「音楽なんて何の役にも立たない」、「こんな時に賛美なんてできない、神様!どうしてこのようなことをなさったのですか!」という不平と不安ばかりが頭の中にあり、どのように祈ったらよいかもわからず、自分がとても無力に思えてなりませんでした。けれども、あの日から2日後の聖日に教会へ行き、兄弟姉妹とともに祈り、賛美歌を歌った時にはじめて涙が流れてきました。あんなに大地が揺れ動いたにもかかわらず、いつもと変わらない朝が来て、いのちが与えられ、生かされている。それまで当たり前だと思っていたことが当たり前ではなくて、神様からの大きな恵みだったのだと気づかされ、自分が生かされている、その大きな奇蹟と恵みに、感謝と畏れさえ覚えました。そのような中で、4月2日にトルコで予定されていたコンサートを、主催者側が日本のためのチャリティーコンサートにしてくださることになり、行って生の声を届けてこようと決心することができました。最初は、こんな時に行っている場合ではないと思いましたし、友人家族を前にして行く気さえ起こらず、キャンセルしようと思っていました。しかし、周りのたくさんの方々の支えと励ましによって行くことができました。海を越えて歌った「ふるさと」は、何とも言えない心情で、ただ無心で歌っていたに等しいかもしれません。会場は満席で、みなさんからたくさんの大きな拍手と声援、日本のための義捐金をいただき、そこで震災後初めて、「音楽が役に立った」と思える働きをすることができました。
トルコから帰ってきて、生活も少しずつ落ち着き、心に少し余裕が生まれてきたとき、私自身が音楽や讃美歌によって慰めを受け励まされたので、その慰めと神様の愛を、歌と音楽を通して被災者の方に届けたいと思い、避難所などで演奏をさせていただいています。仮設住宅以外でも、県外の教会などから奉仕の依頼を受けることは、とてもうれしくありがたいことです。震災後は特に奉仕の機会も増え、被災地を覚えてチャリティーコンサートなどにしてくださることもあり、祈り励ましてくださることが本当に嬉しく感謝しています。また、そのような奉仕をする中で、CD制作のお話もいただき、2013年秋に、アルファトラックスよりオリジナルのCDを発売することができました。震災後に作った宮沢賢治の「雨ニモマケズ」を含め、聖書のみことばを歌にしたものを収録しています。この、「雨ニモマケズ」は、気仙沼の同じグループの教会へ行ったことがきっかけでできた曲です。海のすぐそばにあったその教会はすべて流されてしまいましたが、そこには教会の土台と十字架が残っていて、素晴らしい信仰のあかしを見ることができました。そこで迎えてくださった牧師と教会のみなさんは、大変な目に遭ったにもかかわらず、元気な笑顔で迎えてくださいました。励ましに行ったつもりが、逆にこちらが元気を頂いて帰ってきました。また、その帰りにあるラーメン屋さんに寄ったのですが、そのお店に、この「雨ニモマケズ」の詩が飾られてありました。その詩と、その気仙沼の地で、震災にも地震にも津波にも負けずに励んでおられるみなさんの姿が重なり、深く重く心に響いてきました。もともと私は宮沢賢治さんの作品が好きでしたが、「雨ニモマケズ」は長くて覚えきれないのでこれを歌にしようと思い立ち、帰ってからこの詩に曲を付けさせてもらいました。これが、震災後に初めて作った曲です。

「雨ニモマケズ」
詩:宮沢賢治 曲:大宮香織

雨にも負けず 風にも負けず
雪にも 夏の暑さにも負けぬ 丈夫な体を持ち
欲はなく 決して怒らず 
いつも静かに 笑っている
一日に玄米四合と 味噌と少しの野菜を食べ
あらゆることを 自分を勘定に入れずに
よく見聞きし分かり そして忘れず
野原の松の林の陰の 小さな茅葺きの小屋にいて
東に病気の子供あれば 行って看病してやり
西に疲れた母あれば 行ってその稲の束を負い
南に死にそうな人あれば 行って怖がらなくてもいいといい
北に喧嘩や訴訟があれば つまらないからやめろといい
日照りの時は涙を流し 寒さの夏はオロオロ歩き
みんなに でくのぼーと呼ばれ 褒められもせず 苦にもされず
そうゆうものに 私はなりたい
(Youtubeで配信中)

この「雨ニモマケズ」は実在人物がモデルになっています。それは、岩手・花巻の地で、農業を営みながら教会の牧師として働いていた斎藤宗次郎という方です。この方は、周りから「ヤソ、ヤソ」と言われ、迫害を受けながらも、この詩に見られるようにあらゆる所に行っては人々を助け、不平不満を言わず、いつも穏やかに暮らしていたことがわかります。そんな斎藤宗次郎に、宮沢賢治はあこがれと尊敬を抱き、「そういう者に私はなりたい」と言っています。そして、この斎藤宗次郎がモデルにしていたのは、ほかでもないイエス・キリストだったと思います。私もこの方にあやかりたい、また、被災地で頑張っている方々に、この詩を通して元気と励ましを送りたいと思いながら、いつも仮設住宅で歌わせていただいています。
震災後、まだ避難所だった所へも演奏をしに行きましたが、その頃はとても複雑な気持ちでした。というのも、避難所というプライバシーもない所にこちらから行って、言ってみれば頼まれてもいないのに演奏し、それを聞きたくもないのに聞かされる方々もいらっしゃるということに、申し訳なさと自分の傲慢さを感じたからです。それでも中にはいやしを必要としている方がいることを信じ、必要な方に必要な慰めが届くようにと、祈りながら各地へ向かいました。実際、行く先々で、「慰められた」、「涙が出てきた」などのお言葉をいただくと、こちらが慰められ、励まされて、「やってよかった」と感謝することができました。
それでも、今回の被害はあまりにも大きすぎて、その土地その土地での問題や課題には違いもあり、その土地や環境に合わせながら曲も吟味し、選んでいます。最初の頃は、仮設では特にそのような気を遣い、顔色を伺いながらやっていたので、それなりに自分自身へのストレスやプレッシャーもあり、疲れてしまった時期もあります。けれども、声をかけてくださる教会や仮設側からの演奏依頼もあり、自分が必要とされているということを感じることができ、こんな小さな者でも、主の御用に役立てる幸せを新たに覚えさせられることもありました。特に、被災地ではない所からのチャリティーコンサートなどの依頼を受けるときは、被災地のことを覚えてくださっているということに大きな励ましと勇気、そして神様の愛を感じ、感謝の念が絶えません。
地域によっては、仮設がまとまっていて、とても仲がよく、元気に前を向いて明るく歩んでいる方々、復興住宅ができている所、まだまだ復興が進んでいない所、仮設を撤退しなければならない人々、仮設から出たはいいが、コミュニティから離れてしまって孤独を感じてしまう人々(仮設にいたほうが良かったという方もおられます)、故郷に戻れない人々、避難当時の問題が解決していない所、仮設にいても人間関係に問題のある人々など、いろいろなケースを見てきました。問題は山積みで、まだまだ先が見えない不安の中におられる方々もいます。私は、そのような問題や不安は解決できませんが、ほんのひと時でもその不安や問題を忘れて、歌と音楽の中に癒しと平安を届けることができたらと祈り願いながら、一緒に声を出して歌い、ストレスを発散してもらっています。このような働きができるのも、被災地で主のわざに励み、キリストの愛をもって人々に仕え続けてくださっているクリスチャンのボランティア団体、教会、働き人、同労者がおられるからです。心から感謝するとともに、敬意を払います。
震災後は、さまざまな出会いとともに自分の活動の場も広がりました。石巻に来てくださったあるボランティア団体を通して、石巻の子どもたちに歌を指導する働きに携わることができました。一般の子どもたちを対象にゴスペルを教えるという企画で、教会に全く行ったことのない子や、聖書やイエス様の話を聞いたことのない子どもに対して、音楽を通して神様の愛を伝え、一緒に賛美するという貴重な経験をさせていただきました。歌詞には、ストレートに神様の愛が語られていて、福音の真理が曲の中にコンパクトに、かつ可愛らしく軽やかなメロディーがついていて、覚えやすく、楽しい曲がたくさんありました。少人数ではありましたが、その子どもたちと一緒に石巻で行われたゴスペルフェスティバル、また、仙台ゴスペルフェスティバルにも、2013年、2014年と2年連続で出演させていただきました。教会に行ったこともなく、聖書の話も聞いたことのない子どもたちが、このキッズゴスペルを通して神様のことを知り、御言葉を聞き、神様の愛を受け、神様に祈り、ともに主を賛美しました。本当に神様のなさることは、私たち人間の思いを越えて計り知れず、美しく、素晴らしいです。この子どもたちに蒔かれた種がいつの日か芽を出し、成長し、豊かな実を実らせることができるよう祈り続け、またこの活動もさらに広がっていったらいいなと願っています。何よりも、私自身が子どもたちの素直なかわいい歌声に元気とパワーもらい、ハッピーにさせてもらっています。自分も子どもになった気分で、素直な心で神様を賛美できるので、とても楽しく何にもかえがたい満ち足りた時間です。これからの将来を担う子どもたちに、神様を賛美する楽しさと豊かさ、素晴らしさをもっと知ってもらえたらと思います。
音楽なんて何の役にも立たないと思っていたあの時から3年以上経ち、私は今、再び音楽の力によって励まされ、支えられ、生かされ、この地に立たされています。神様が遣わしてくださるどのような所でも、私にいのちを与え、守り支えてくださっている神様をあかしし、また、御言葉の賛美を携えて、歌い続けていきたいと願っています。


大宮香織
宮城学院女子大学音楽科(声楽専攻)卒業。東京バプテスト神学校教会音楽マスターコース修了。「ユーオーディア」、女性ボーカルアンサンブル「Stella」、「アルファトラックス」に所属。2013年秋、オリジナルCD「しあわせのおきて」発売。現在、八木山聖書バプテスト教会にて教会音楽リーダー。

 

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