霊的な礼拝者として

   教会とみことばの力
 
インマヌエル高津教会 牧師 ● 藤本満


アメリカのクリスチャンジャーナリスト、フィリップ・ヤンシーが、著書『教会――なぜそれほどまでに大切なのか」の中で、以下のように記しています。
「教会は本来、楽しみを供給したり、弱さを励ましたり、自尊心をそだてたり、友情をはぐくんだりする場所ではなく、神を礼拝するところである。この点で失敗するなら、その教会は失敗である。」
神を礼拝するとき、神は私たちの賛美と祈りをお受けになります。しかし同時に、神は私たちの賛美と祈りに応答してくださり、私たちに語りかけてくださる方です。それは単に慰めと励ましの応答だけでなく、私たちに行くべき道を示し、私たちがどう生きるべきか、どうあるべきか、と私たちが神の民として生きるために教えてくださいます。その意味で、礼拝の中で神様が私たちに向かって働きかけてくださるのが説教で、その説教はまぎれもなく、神のことばとして私たちに伝わってきます。
その時、以下のことを心に留めておきたいと思います。第一に、礼拝で聞くみことばは、小さな種です。しかし、その種を育てていくと、大きな恵みの木となり、大きな祝福となります。第二に、みことばは、単にそれを聞いた者を慰め励ますだけでなく、聞いた者を内側から変えていきます。私たち人間がいつも「地」の限界に閉じ込められて生きているとしたら、神のことばは、その限界から私たちを引き出して、「天」の息吹を吹き込み、天国の市民としての力にあふれさせる力があります。その時、第三に、人生の複雑な諸問題を抱える私たちではありますが、みことばというじつに素朴な土台、堅固な、揺るがない土台の上に家を建てるような、確かな足取りを得るに違いありません。

一粒の種からはじまる
「イエスはまた湖のほとりで教え始められた。おびただしい数の群衆がみもとに集まった。それでイエスは湖の上の舟に乗り、そこに腰をおろされ、群衆はみな岸辺の陸地にいた」(マコ 4:1)。「種蒔く人は、みことばを蒔くのです」(マコ 4:14)。
場面は、主イエスが悪霊を追い出し、病をいやし、力ある奇蹟の御業を展開された後のことでした。主の働きは人びとの目を引きます。多くの群衆が集まってきます。そして、種まきのたとえを群衆と弟子たちに語られました。このことは、群衆や弟子たちの期待には反していたはずです。彼らは、力ある神の奇蹟が、一気にローマ帝国はひっくり返され、ダビデの王国が回復すると期待していました。つまり、彼らが期待していたのは、種まきではなく、収穫でした。神の力にあふれた介入によって、一気に形勢が逆転して、祝福にあふれた世界が広がることを期待していました。神の子が天の雲に乗って、天の軍勢とともにやってくる、そして世界の収穫が始まる、というのが人びとの期待していたことです。
ところが、主イエスは、ここでまったく違ったたとえを説明されました。神の国の到来は、収穫とは逆の、種まきだというのです。「わたしの働きは、みことばのたねを蒔くことからはじまる。」種一粒です。神の働きは大収穫ではなく、みことばの種一粒から始まります。それは弟子や群衆にとっては、救い主、王宮ではなく馬小屋に生まれる、というぐらい正反対のイメージだったに違いありません。
私たちはともすると、神の祝福を、種まきではなく、収穫のように期待してしまいます。祈ったことがすぐ解決するように、願ったことがすぐにかなえられるように、努力もせず、働くこともせず、それが実現するように。天の軍勢が降りてきて、全部片を付けてくれるように。
しかし、主はおっしゃいました。「わたしの働きはすべて、わたしの祝福はすべて、みことばという種からはじまる。」神の国でのすべての祝福は、そのおおもとをたどっていけば、小さなみことばに行き着く。逆を言えば、もしみことばに行き着かないのなら、わたしの祝福ではない、ということになるのではないでしょうか。
「おことばをいただかせてください」(ルカ 7:7)。
まず、みことばを与えてください。神の国の種を与えてください。それを心の中で育てる喜びを教えてください。そのような気持ちで、日曜日の礼拝を一週間の原点にしたいと祈ります。

みことばは私たちを変える
礼拝とは、私たちを限りなく愛しておられる神様が、罪深い私たちを迎えて、受け入れてくださるときです。礼拝とは、私たちを創造され、贖ってくださった神に、私たちの日々の糧を与えて、守り導いてくださる神を賛美し、感謝するときです。礼拝とは、聖なる神に、それでいて限りなく低く下ってくださる神の愛に、感動して心をふるわせるときです。礼拝とは、私たちのたましいが本来属する神の懐に帰るときです。礼拝とは、この世の価値観、この世の評価、この世の欲にとらわれた私たちが、方向転換をして神の御心を求めるときです。
主はこのような礼拝者に語りかけてくださいます。そのとき、問われるのは、聞く者の心です。
「きょう、もし御声を聞くなら、……あなたがたの心をかたくなにしてはならない」(詩95:8~9、へブ 3:15)。
デンマークの哲学者キルケゴールは当時の教会を批判して、こんな話をしています。アヒルの牧師の話を聞きに、アヒルがぞろぞろ、クワックワッと言いながら、大きな水かきで歩いて、お尻を振りながら教会に入ってきます。心を込めてアヒルは賛美歌を歌います。アヒルの説教者は、神はアヒルに大空を飛ぶ翼を与えてくださった、と雄弁に語りました。くちばしで講壇を叩きながら、愛する兄弟姉妹、この翼があれば、私たちにいけない世界はありません、自由に空を飛ぶことができます。これこそが、神様が私たちに与えてくださった使命です。この翼を使って、自由に高く舞い上がるのです。アヒルの会衆は、「アーメン」と声を合わせます。説教者は、感極まって、「そうです、飛ぶのです、高く舞い上がるのです」と翼をその場で羽ばたかせます。それを見て、みんな口をそろえてアーメンです。
アヒルはみな恵まれました。口々に、きょうの説教はよかったね、と礼拝が終わります。そして、アヒルはみんな、もと来た道を大きな水かきをぱったんぱったんさせて、お尻を振って、家路につく、という話です。あのアーメンは、なんだったのでしょうか。いつものようにお尻を振って歩いて帰って行きます。口々に恵まれたと言って、きょうの礼拝はよかったと言って、でも何にも変わらないのです。
考えてみなければなりません。イスラエルの民は昼は雲の柱、夜は火の柱に導かれ、天からのマナを食し、神の臨在を身近に 感じていながら、40年、その礼拝はどれほど彼らを変えたのでしょうか。礼拝は私たちを変えます。心を柔らかくして聞くなら、蒔かれたみことばの種を大切にするとき、主の恵みの種は育っていきます。

複雑な人生と素朴な土台
アメリカで活躍している、ラビ・ゼカライアスというインド人の有名な説教者がいます。彼はある日、オハイオ州立大学の講演に招かれたそうです。空港から会場へと車に乗って移動しているとき、キャンパスの中にある有名な、ウェクスナー・アート・センターという建物が目の前に広がりました。大学が誇る、芸術的な建造物です。大きな柱は、何かを支えているわけではなく、階段はどこかに行き着くわけでもなく。建物の構造は、外から見ると規則性がないのです。何かを目指すわけでもなく、どこかに行き着くわけでもなく、秩序を失ったこの世界を象徴するような建物だというのです。
ゼカライアス先生は、運転をしてくださっている大学の方に尋ねたそうです。「あの建物は、土台の部分もあんな感じなんですか?」すると、その方は笑って答えたそうです。「そんなはずないじゃないですか。土台はいたって古典的ですよ。」
それを聞いて、ゼカライアス先生は、なるほどと思ったというのです。私たちの人生の家の部分は、人それぞれに違いがあり、時にあらぬ方向に発展して、階段を上がったつもりがどこにも行き着かず……。私たちはだれ一人として、整然と秩序だった人生を送ってはいないのです。迷うこともあり、傷つくこともあり、病むこともあり、行き詰まることもあります。いや、それだけでなく、私が建ててきた家に、雨が降って、洪水が押し寄せて、風が吹いて、激しく家が揺らされます。
人が見たら、奇妙な建物だと思えるほど、私の信仰生涯は複雑でしょう。私は家を建てることに必死です。仕事に家庭に奔走し、過去を振り切ろうと、将来を保証しようと、懸命です。そんな私たちですが、土台は素朴です。信仰生涯の土台はいたって古典的です。神のみことばを素直に心に受け止め、心を込めて忍耐をもって育てていくことを、私たちの信仰の真髄としています。みことばの土台をおろそかにすると、人生が傾いていくのを私たちは知っています。家を建てるという私の人生で、最も大切なのが土台であることを私たちは知っています。
「わたしのこれらのことばを聞いてそれを行なう者はみな、岩の上に自分の家を建てた賢い人に比べることができます。雨が降って洪水が押し寄せ、風が吹いてその家に打ち付けたが、それでも倒れませんでした」(マタ 7:24~25)。


藤本満
川崎にあるインマヌエル高津教会牧師。聖宣神学院教師、青山学院大学兼任講師。専門のジョン・ウェスレー研究の書物や論文のほか、『エリヤとエリシャ』『ガラテヤ人への手紙』『祈る人びと』『わたしの使徒信条』などを著している。

 

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