霊的な礼拝者として

   天の御座を動かす祈り
 
主イエス・キリスト教会牧師 ● 大久保みどり


寄稿するにあたり、「天の御座を動かす祈り」というテ-マをいただきました。紅海を二つに割ったモ-セ、3年6ヶ月天を閉じたり雨を降らせたりしたエリヤ、天から火を降らせたエリシャの祈りなど、その例は枚挙に暇がない程です。その中で私の好きな、とっておきの例はステパノの殉教の場面です。
ステパノの福音を聞いた人々は「心の底から激しく怒り、ステパノにむかって、歯ぎしりをした。しかし、彼は聖霊に満たされて、天を見つめていた、神の栄光が現れ、イエスが神の右に立っておられるのが見えた。そこで、彼は『ああ、天が開けて、人の子が神の右に立っておいでになるのが見える』と言った」(使徒 7:54~56、口語訳)。 
普通、主は神の右に座しておられるのに(詩 110:1、イザ 9:7)、この時は立っておられました。ステパノを助けるために立ちあがられたのでしょうか。そうではありません。すでに聖霊を通して助け続けておられたので(使 6:10)、ステパノの信仰姿勢と愛の祈りに感動し、思わず立ちあがられたのではないでしょうか。このキリストの徳の高さに完成された信仰は、後のパウロの救いとリバイバルを導く基となりました。これこそ、真のスタンディング・オベイションの初めと言えそうです。
目に見える奇跡は何も起こらなかった、しかし、御座の主を感動のあまり立ちあがらせた祈りです。天の御座を動かす祈りの一つと言えるでしょう。ステパノは、どうしてこのような天の御座を動かす祈りができたのでしょうか。その秘訣は、殉教前に語ったステパノの福音に秘められています。彼のメッセ-ジは、使徒行伝7章2節から60節までですが、大きく3段落に分けることができます。(1)信仰契約、(2)律法契約、(3)十字架の贖いです。
ステパノの信仰生活も、祈りの生活も、この明確な福音理解の上に築かれていました。だから、現状がどうあろうと恐れることもひるむこともありませんでした。彼が一心に見つめていたのは、栄光の主が統治しておられる神の国だからです。

(1)信仰契約(使 7:2~16)
人間の創造目的は、「生めよ、ふえよ、地に満ちよ、地を従わせよ。また海の魚と、空の鳥と、地に動くすべての生き物とを治めよ」(創 1:28、口語訳)。つまり、神の子を生んで、神の子を育て、全世界に送り出し、神の国をこの地に建設することです。そのために、心と思いと力を尽くして御言葉を信じ、従順しなければなりません。エデンの園で、アダムとエバは、サタンの誘惑に負けて、御言葉に不信仰と不従順という罪を犯しました。その結果、サタンと、罪、死、老、病、苦の支配するこの世で苦しみながら、ついには滅びる者となってしまいました。しかし、神様は永遠に変わらないお方です。罪の世界で苦しむ私たちの中からアブラハムを選んで、契約を結んでくださいました。それは、アダムを祝福された内容と同じです。
アブラハムに与えられた信仰契約は、イサク・ヤコブ、イスラエル十二部族へと継がれ、最後にアブラハムの子ダビデの子イエス様(マタ 1:1)に受け継がれました。イエス様が3.5年の公生涯を通して祈り求め続けられた内容は、アブラハムの契約の祝福であり、十字架の贖いを通して私たちに与えられたのも、アブラハムの契約の祝福でした(ガラ 3:13~14)。
主はアブラハムと契約を結ばれる際、75歳の時から合計12回現れて、契約内容とそれがどのように実現されてゆくかを具体的に明らかにしてゆかれました。アダムが失敗した祝福を受け取る道が、アブラハムの契約を通して実現するという内容です(創 22:15~18)。

(2)律法契約(使 7:17~43)
アブラハム・イサク・ヤコブの子孫は、エジプトで430年奴隷の苦役にうめくことになりました。まるで、すべてから忘れ去られたようですが、神様は契約を覚えておられました(出 2:23~25)。
契約どおり、時が満ちると、モーセを立てて、子孫をエジプトから脱出させ、アブラハムの契約の恵みを受けるために律法を与えられました。しかし、律法はこの世の国々の法律や道徳律とは完全にレベルの違う、神の国の正義を表しています。神の義と人間の正義は、似て非なるものなのです。
第一のアダムが罪を犯して以来、霊の目に鱗がかかり、全く神の国も神も見えない、聞こえない、心に思い浮かぶことさえできないようになってしまいました。その結果、見える世界、肉体で感覚できるこの世の中だけで善悪を作りだし、幸不幸を考え、政治経済文化を発展させてきました。人間の作り出した正義では、神の国は見ることも入ることもできないのです。
このようなやみの世界で、四苦八苦している人間に、もう一度神の国の神の子として生きる道を開くために、律法が与えられました。律法を行おうとすれば、人間の倫理道徳哲学では絶対に入れないほど、神の義は崇高だということが思い知らされ、救い主の到来を希求せずにはいられません。律法が与えられた理由をまとめると、おおむね以下のようです。
① 罪人に与えられた。(Ⅰテモ1:8~15)
② 罪の悪性が甚だしいことを教えた。(ロマ 5:20、7:12~16)
③ 救い主を待ち望み、信じさせる養育係となった。(ガラ 3:21~24)
④ 罪の力が肉にあることを教えた(善悪を知る木の実を食べたから)。(ロマ 7:17~25)

(3)十字架の贖い(使 7:44~60)
律法を実行できないので、すべての人は律法ののろいの下にありました。イエス様は全人類の身代わりに、この律法ののろいを受けてくださいました。この世の国々の法律によって、さばかれたのではありません。神の国の法律、神の正義を表す律法のさばきを受けられたのです。それによって、イエス様御自身が天国の門となられました、イエス・キリストを信じるなら、即天国の門をくぐったことになります。何人であっても、どんな極悪非道の者であってもイエス・キリストを救い主として信じ受け入れるなら、即座に助け主聖霊様が与えられ、私たちは、神の子、御国の民、祭司としての立場と祝福を受け取ります。
このようにして、神の子が空の星、浜辺の砂のように生み出され、地の果てまで送り出され、神の国を建設する道が開かれました。アブラハムの契約は、律法契約、十字架の贖いを通して実現されました。イエス・キリストを救い主と信じる者はだれでも、アブラハムの契約の恵みを受け取ることができるようになったのです。
ステパノは、信仰契約、律法契約、十字架の購いという福音の基本原則を明確に具体的に確信を持って理解し、信じていました。彼が常に見つめていたのは、天国だったのです。
目に見える奇跡は何一つ起こりませんでした。しかし、天の御座のイエス様を動かすほどの奇跡は、ステパノの中に起こっていました。いまわの際に、彼は大声で自分を殺す者たちのために、「主よ、どうぞ、この罪を彼らに負わせないで下さい」(使 7:60、口語訳)ととりなしの祈りをしました。今生の最後の時、彼の心に燃え上がっていた愛は、神と人への愛でした。十字架のイエス様と全く同じ姿、十字架の死に至るまでの信仰と従順の信仰の姿でした。サタンと罪の支配の中で滅びて当然、さばかれて当然、律法を全うすることができない私たちが、いのちがけて敵を愛する愛に生きることができるようになった、それこそが最も大いなる奇跡です。
「それだから、あなたがたの天の父が完全であられるように、あなたがたも完全な者となりなさい」(マタ 5:48、口語訳)。

(4)日々神の国を体験しよう
サタンは、決して私たちに天国を見せることはできません。この世の栄耀栄華を見せ、それを得ることが天国の喜びであるかのように惑わします。多くの人々は、目の欲、肉の欲、持ち物の誇りの中で幸福度を測り、永遠の天国と地獄があることなど全く無関心に生きています。死んでみなければわらないとうそぶいて、楽観的に生きています。その生き方こそ、サタンの罠にはまった生き方です。サタンの策略は、人々の心から天国を盗み、殺し、滅ぼすことです。
イエス様は、神の国から来られ、神の国を見せ、神の国に入れる力のある唯一の神です。だから、荒野でサタンの戦いに勝利された後、真っ先に「天国は近づいた。悔い改めて福音を信じなさい」と言いわれました。天国は死んで後に行く所ではなく、生きている今から入り、体験し、その恵みの中で生きれる所なのです。天国は見えるかたちではなく、私たちのただ中に(ルカ 17:20~21)、私たちの霊に啓示されます。決して滅びることも、盗人が入って盗むこともできない、津波がさらってゆくこともできない現実です。ステパノはこの天国を第一に求め、天国を見続けていたから、天の御座を動かす祈りができたのです。


大久保 みどり
熱烈な仏教徒であったが、1974年26才の時に救われる。ミッション系大学に入学した当初、福音に触れ、猛反発!それ以来イエス・キリストはいないことを学問的に証明しようと7年間苦闘する。その最中、神との劇的な出合いをし、一瞬にしてキリスト信仰へと変貌する。神戸女学院大学で文学を教えるかたわらTV「幸福への招待」の司会を1979年~1998年まで担当。その間召命を受け、主イエス・キリスト教会牧師となる。現在、主イエス・キリスト教会主監牧師、NRA事務局長、JCチャーチスクール校長、NPO法人JCワ-クス理事長。

 

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