ディアスポラ日本人

   日本と韓国の狭間(はざま)にて
 
ソウル日本人教会 牧師 ● 吉田耕三


はじめに
日韓関係を一言で表現する場合に、「近くて遠い国」と言われてきた。なぜ、そうなのだろうか。
そして、そのことが両国民にとってどんなに不幸なことなのかを知るのには、随分長い時間がかかった。観光やビジネスで人の往来も増えた上に、韓流ブームが起こって久しいのに「近くて遠い関係」は基本的には変わっていない。どうしたら変えられるのか。これをお読みくださっている日本のクリスチャンの歴史認識や考え方が変えられることによって必ずやそれは可能となり、ひいては両国がアジアと世界宣教のパートナーともなれるでしょう。

1.あなたの隣人とは、だれか。-- 私と韓国とのかかわり
1)世界伝道研修大会(Expro '74)への参加
東京・立川での奉仕を終え、終生そこで骨を埋めるつもりで名古屋郊外の母教会に帰り、開拓同然の郷里伝道を始めて5年目の夏に、「エキスプロ '74」という大掛かりな伝道研修大会が韓国で開催されることになった。全国各地の空港から約1千名の牧師・信徒が、韓国の首都ソウルに向かった。私も初めての韓国訪問に期待をふくらませていた。
現地に着くや1週間に渡って、昼は永楽教会での伝道研修、夜は160万人が集まるヨイド広場での大聖会に参加した。日本では見たことも聞いたこともないようなことばかりに圧倒される。めまぐるしい1週間が過ぎ、帰国した後もなかなか頭の中の整理が付かない。今まで東京・大阪・名古屋・武道館・後楽園球場などでの超教派の集会や伝道大会に何度も出席したが、ケタが違う。スケールが全く違う。
ここで私は数の多さという量にだけ圧倒されたのではない。むしろ表面には見えない中身、すなわち、何が韓国の人々をしてこうさせているのか、という根っこの部分に心が向いた。そして「あなたの隣人はだれか?」から「あなたの隣人がここにいる!」 との主の語り掛けに変わる。そのことは、とりもなおさずもう一つの主のご命令である「自分を愛するようにあなたの隣り人を愛せよ」(マタ 22:39、口語訳)との御声を頭や耳だけでなく、心とたましいで受けとめることになる。このころから私の説教が変わってきた。

2)韓国とアジアに目が開かれる
1974年8月の初訪韓を契機として、その後も1年おきぐらいに、個人か少数で静かに客観的に韓国という「隣人」を見直したいとの思いで訪韓した。前回は行けなかったが、2回目の時には是非行きたいと願っていたところがあった。ソウルから1時間ほど南に下った水原郊外の堤岩(チェアム)教会だ。「3・1独立運動」の嵐の中で起こった残虐行為の象徴である「堤岩教会焼き討ち事件」の現場だ。日韓親善宣教協力会会長の尾山令仁先生が、かつて同教会謝罪再建委員会を組織され、その委員長として日本国内で1千万円(現在の数億円に相当)を集めて謝罪再建運動をなさった教会である。 
「ここに来てよかった!」初訪韓での疑問がここで解けたからだ。ソウル・ヨイド広場での大集会の底力が実は「3・1運動」にさかのぼらねばならない、と悟った。(そして、この教会で懺悔の祈りの内に、韓国への謝罪と和解の使命とビジョンをいただく。)

3)ソウル日本人教会の牧師として招請
1981年9月、4年間の準備を経て、日韓親善宣教協力会から第1号の、しかも「謝罪と和解」の使命を帯びた宣教師として家族共々韓国に派遣された。こうして私共は韓国とのかかわりというよりは、現地に身を置くことによって、30年に渡り日韓両国の狭間にあって主の十字架を中心とした各界・各層の方々に対する謝罪と和解の働きが始まることになった。

2. 韓国での牧会と各種の働き
1)奉仕の種類や範囲の拡大
前述のように私共は、ソウル日本人教会の牧師として招請されはしたが、教会内での牧会にとどまらず、むしろ対外的な働きの多さには驚くほどであった。
着任するとまもなく、ソウルのキリスト教放送局(CBS)やビリー・キム先生の極東放送などのインタビュ-により、ソウル日本人教会と私共の来韓目的(謝罪と和解)が韓国社会に徐々に知られ始めた。永楽教会からは日本語聖書班(日本宣教部)と日本語青年部の指導牧師に、韓国聖書神学校からは日本語科の講師に、極東放送からは家内には「日本語で聖書を」の番組の講師に、娘たちにはピアノの通訳付きレッスン(無料奉仕)の申し出があったりした。特に私共の奉仕は日を追って拡大して行き、ソウル首都圏(諸教会・神学校・ミッションスクール・職場・老人ホーム・刑務所)を始め、大田・大邱・光州・釜山・済州島等々へと拡大した。
また一般のメディアにも、こともあろうに、「3・1節」(3月1日の抗日独立運動の記念日)や8月15日の光復節(日本の敗戦は韓国では独立解放の祝日)に取材を受けることが多い。

2)教会の安定と成長
従来はソウル中心部の鐘路5街にある蓮洞教会の教育館をお借りして礼拝をささげてきたが、1992年には、地下鉄2号線の「聖水駅前」(③番出口)に念願の教会堂が与えられ、多い時は礼拝出席70~80名、CS(土曜学校)40~50名、2箇所での家庭集会などを通して母親たちを中心に多くの受洗が与えられ、韓国の学生たちを含め今までに100名近くの人たちが洗礼を受けキリスト者・求道者となって帰国したり、第3国に再転勤したりして信仰生活に励んでいる。

3. 祈りの課題と今後のビジョン
1)韓国研修宣教交流会のプロジェクト
これはクリスチャンの旅行社やホテルマンと私共とが三者で協力して立ち上げたもので、恥ずかしいことに、キリスト者を含めて日本人の多くは、日本が韓国に対して犯した侵略と迫害の歴史、またはその内容をほとんど知らない。これこそが、はじめに申し上げた両国を近くて遠い関係にしている原因であるとともに、日本のリバイバルを妨げている最大の理由となっている(エズラ・ネヘミヤ・ダニエル書の各9章ご参照)。
個人の罪が十字架の下に悔い改めねば清められないように、国家・民族の罪も懺悔・謝罪・清算されなければ、赦されず清められないと旧新約聖書、殊に前記聖句は警告している。
それで私共の教会の主たる働きは、日韓両国民に和解の福音を宣べ伝えるとともに、一人でも多くの日本国民に自分たちが隣人(韓国)に何(侵略と残虐行為)をしたか、そして何(謝罪と和解と清算)をして来なかったかを目で見、心で悟るために歴史現場研修ツアーを実施しており、従来の牧師・信徒に加えて、大学生・神学生・高校生・中学生にまで範囲を広げ年令を早めて受け入れることにしている(例:夏休みを利用した10名~2、30名規模のスタディ・ツアーや春・秋の50~100名規模の修学旅行などが実施中)。

2)日本の負の遺産を清算すること
日韓首脳会談が行われるたびに、韓国の大統領から「未来志向の日韓関係を築こう」との提案が出される。しかし、これを受け止める当の首相や日本国民は、「前向きのありがたいご提案だ」で終ってしまう。韓国側の「未来志向」と言うのは、過去の歴史は問わずに今後のことだけを取り上げて協議しようということではない。日本帝国による植民地時代の武力侵略と暴政の爪あとは、今なお多くの面において生々しく残っている。その最たるものが、南北を分断している「軍事休戦ライン(境界線)」だ。
それは1945年の日本の敗戦(韓国の独立・解放)当時は38度線だったが、5年後に北朝鮮共産軍の奇襲南侵攻撃によって勃発した6・25動乱(朝鮮戦争)の結果、軍事休戦ラインとなって現存し、南北の行き来を一切遮断しており、北は世界最悪の共産世襲独裁国家となって、国民の一切の自由と人権を剥奪している。韓国の牧師方は、日本の敗戦時は南半分だけの独立・解放に過ぎず、北半分は人間以下の圧制からいまだに解放されていない、と嘆かれる。1910年の日本の武力侵略がなかったならば、38度線や休戦ラインなどの分断線は一切存在しなかったものを、と。一千万の離散家族が、分断の固定化に涙の乾く間もなく統一を切望し祈っている。日本の聖徒方も、このためにどうぞお祈りください。
また、15万~20万名もの日本軍慰安婦に駆り出された女性たちに対する、まともな謝罪も補償もなく、恨(はん)を抱いたまま、きょうも息を引き取って逝かれる。未清算の問題はあまりにも多く重く、枚挙にいとまがない。

3)韓国の神学校卒業生を日本の無牧の教会に送る準備
若い世代の献身者が極端に少ない日本とは対照的に、韓国の神学校では毎春数千人の卒業生が輩出されるが、先がつかえていて奉仕教会がないほどのもったいない状況です。
「世界はわが教区」とは今も真理でありましょう。伝道者・牧会者の需給が日韓両国で協力し合い福音の前進のために用いられるようにお祈りください。

 

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