ディアスポラ日本人

   激動の時代に生きて
 

宣教団体レスキュー・ルーマニア・ジャパン代表
ルーマニア・ペンテコステ連盟宣教師 ● 川井勝太郎


私が初めて東欧・ルーマニアを訪れたのは1991年夏のことでした。アメリカの音楽宣教チームで2週間ほど証しや演奏をして現地の教会を周り、多くの人々が福音に飢え渇いて教会に集まっている様子を見て、大きな感銘を受けました。分断されていた東西のヨーロッパが自由化されて一つになり、東欧への宣教の働きが開かれた時期でもありました。共産党の激しい迫害に耐えて祈り続けてきた教会は、自由という恵みをいただいただけではなく、多くのたましいが教会に押し寄せて来るリバイバルを体験している最中でした。共産主義というイデオロギーが倒れた後、本当に心を満たす何かを探す人々で、教会が集会ごとに一杯になりました。神様の大きな恵みの御業が次々と起こっていましたので、この時を逃してはならないと示されたのもあり、1994年秋、当時住んでいたアメリカの生活を捨てて、ルーマニアに単身乗り込んで来ました。当時、クルージュ・ナポカの町は人口30万人程度の地方都市でしたが、在住する日本人は私一人。大変珍しがられたのを思い出します。

リバイバルを体験して
私の宣教師としての仕事は、特に農村部の教会を建て上げていくお手伝いでした。牧師のいない教会に遣わされ、教会員たちを整え、会堂建築を助け、新しい牧師を任命するまで、半年から3年程度の時間で建て上げるように教区から派遣され、奉仕して来ました。90年代のリバイバルは農村部でも顕著で、私のような経験のない宣教師でも、どんどん集会が膨れ上がり、教会が成長していくのを体験して、3年目からは責任教会以外にも巡回伝道や枝教会など数か所の教会に関わる事もあって、16年で22か所の教会開拓に携わらせていただきました。まさに「権力によらず、能力によらず、わたしの霊によって」(ゼカ 4:6)と言われた主のみことばの通り、主の一方的な恵みによって、多くのたましいが救いに導かれ、教会が力強く前進した時代でした。迫害されてきた教会の祈りが聞かれて、宣教の扉が開かれた当時のルーマニアは、主のすばらしい御業が現されました。そのような時代を宣教師として体験できた祝福は、私の一生の宝です。

離散された民による宣教福音
使徒の働き8章には、離散された民のことが書かれています。「その日、エルサレムの教会に対する激しい迫害が起こり、使徒たち以外の者はみな、ユダヤとサマリヤの諸地方に散らされた」(使 8:1)とありますが、ここで驚くべき事実は、散らされた人たちが使徒たち以外と明記されていることです。続く4節では「散らされた人たちは、みことばを宣べながら、巡り歩いた」と記されています。ルーマニアのリバイバルも、1997年頃から少しずつ勢いを失い、西欧から流れ込んで来る物質主義と資本主義に社会全体が飲み込まれていく過程で、教会の成長も停滞し、さまざまな困難に直面していきました。そんな時代の流れの中で、神様はさらに不思議な業をルーマニアの民に現してくださいました。当時、国は自由になっても、経済的な成長や市民生活などはまだまだ西欧に及ばず、多くの若者が外国に出稼ぎに行くようになり、行った先々でルーマニア人教会を建て、世界中にすばらしい信仰を証しするようになりました。私も招かれて、ヨーロッパ各地や北米のルーマニア人教会でご奉仕しましたが、どの教会も主に祝福されて成長して、自分たちで会堂を建てたり、中には千人を超える教会もいくつか出てきました。驚くべきことに、ほとんどの離散されたルーマニア人集会は、神学教育を受けた教職者ではなく、何の経験もない30代以下の若者たちによって運営されていることでした。使徒以外の普通の信徒たちの中で、主を愛し求める純粋な気持ちから生まれてきた群れが成長し、教会を形成している様子を見て、使徒行伝さながらの伝道が、神学的にも霊的にも枯渇した現代のヨーロッパに展開されているのだと実感しました。いまだ経済的な苦境や民族差別などの苦難を背負いながらも、主に解決を求めて教会を第一にするルーマニアの若者たちから、多くの励ましと恵みを受けています。それぞれの国で現地の教会との協力関係を築いたり、現地の人々に証しをし、福音を伝えている様子は、主がまさに使徒の働き8章を再現されたかのような感じです。築き上げられた離散地のルーマニア人教会が本国の教会を経済的にも支え、また私のように本国から福音を携えてやって来る使徒的な働きをする宣教師や伝道師を受け入れて、主の働きが今も拡大前進しているのです。多くの離散民の支えが国政にも大きな影響を及ぼすので、ルーマニアの国会は離散民代表の枠を設けて、それぞれの地域の離散民代表を数名ブカレストに招集しています。そして、離散民の半分は福音的な教会に関っている熱心な信仰者です。世界中に散らされているルーマニア離散民の数は400万人にもなると言われていますが、ほとんどの離散民は教会を中心としたコミュニティーで交わりを大切に生活しています。

日本人として、信仰者として、東欧に生きる
外国に住む日本人は、ルーマニア人ほど圧倒的な影響力で現地に根付いているとは言えませんし、欧州にある邦人教会、集会も小さく弱い存在であることを否定できません。しかし、そんな私たちの存在とは裏腹に、欧州、特に東欧の親日的な土壌は、そこに住む日本人に新しい挑戦を提供していると思います。2010年秋から、私の住むクルージュの町に新しい宣教センターを開設して、活動を始めるに当たって、主は日本文化を用いて福音を伝えるというビジョンをくださいました。そこで、宣教のみならず、日本文化センターの肩書きも上げて、表通りに面したスペースを純日本風福音喫茶にし、門戸を広く開け放ちました。教会という閉鎖的な空間から深みに漕ぎ出して、網を下ろすつもりで主の導きに従いました。開所から約半年経ちましたが、毎回の集会に50人以上の若者たちが集っています。日本を愛するルーマニア人たちも多く、熱心に日本のために祈ってくれます。日本語を上手に話す若者も数人いて、主がこの東欧の小さな町から日本に何かを起こそうとされていることを強く感じています。遠く日本を離れて、東欧ルーマニアにいながら、「私は2つのJに仕える」と言われた内村鑑三のような熱い思いを与えられています。東欧の邦人人口も横這いか、あるいは微少ながら増加していると聞きました。コスト高で制約の多い西欧の国々より、まだ市場が充分に開発されていない東欧は、ある意味多くの可能性を秘めていると言われています。そのような兆候もあってか、私の住むクルージュにも現在80人程の日本人が住んでいるようです。東欧の他の都市を見ても日本人人口はそこそこですが、邦人伝道のための集会はプラハ、ブカレスト、そしてクルージュの3ヶ所のみです。これから東欧で邦人伝道を展開するために、若い働き人が必要です。主が私たちのセンターに働き人を送ってくださり、ここから東欧全域へ訓練して送り出す構想も与えられています。また、日本文化を紹介する事業を通して、多くの日本人とも知り合うことができました。外国の日本人は他民族に比べて閉鎖的で、特に日本人同士の出会いも少ない中で、文化活動が心の間口を大きく開いてくれることがたくさんありました。多くの活動を通じて、自分の国の美しさやすばらしさを伝えながら、東欧の地に根を張って生きることを学んでいます。同時に、信仰者として天の御国のすばらしさとそこに導かれた過程(福音)を恥じることなく証しして、キリスト教が伝統的に根付いている東欧に新しい主にある生き方、主と共に歩む恵みの道を示して行きたいと願っています。「私にとっては、生きることはキリスト、死ぬことも益です」(ピリ 1:21)とパウロが告白したように、離散された土地においてもキリストを生きる信仰者でありたいと願って止みません。

最後に
クルージュ日本文化&宣教センターの働きは大きな可能性を持った働きであると実感しつつ、日本の教会が支援してくださっていることに大きな意味があると思います。日本の教会が外国にこのようなセンターを支援していることは、今まで外国の宣教師にたくさんの活動を支援していただいた日本の教会が、やっと外国にも同じような恵みを与える側に立てるようになったのだと感謝しています。それと同時に、まだまだ大きな必要を背負っている日本の救霊のために、主がこの地の果てのような場所にも日本人を連れて来て、救いの場所とするためにこのセンターを与えてくださったと思っています。たとえ、世界の果てのような場所でも、そこで信仰を持つならば、すばらしいことですし、私の思いでは不可能に思えることも、万軍の主の熱心がこれをなす(イザ 37:32)と言われるように、日本から出て来ても主に集められ救われるたましいが起こされると信じています。「わたしが地上から上げられるなら、わたしはすべての人を自分のところに引き寄せます」(ヨハ 12:32)とイエス様が語られたように、主が人を集められるというみことばに信頼して、伝道を続けたいと願っています。必要も多く、いろいろな患難はありますが、離散された場所で主の栄光を現す働きのために、お祈りいただけると感謝です。



 

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