聖徒の敬虔訓練⑥

   自尊心と敬虔訓練
 


ホン・インジョン ● 長老会神学大学 実践神学教授

自尊心とは、自我尊重心の略です。自尊心とは、自分に対する現実的で肯定的な理解と、これに伴う安らかな感情のことをいいます。現実的というのは自分の長所と短所を同時に見ることであり、安らかな感情というのは自分の短所を認めながらも長所に対する肯定的な感情を持つことです。
自尊心とプライドは区別されなくてはなりません。自尊心は高められるほど良いものですが、プライドの高い人は劣等感のせいで傷つきやすく、ほかの人を苦しめます。自尊心は自分の価値を信じる心のことですが、プライドはほかの人と比べて優れているか劣っているかという比較意識から来る反応的な感情です。
自尊心と劣等感は、硬貨の両面にたとえることができます。劣等感が大きくなると自尊心が小さくなり、反対に自尊心が大きくなると劣等感が訪れてもすぐに消えてしまいます。
同じように、自尊心が高ければ、ほかの人を意識してプライドを強く主張する必要がありません。しかし自尊心が低いと、自分の長所を証明するためにほかの人たちにプライドを表立して示す可能性が高くなります。それゆえ、プライドを「類似自尊心」とも呼ぶのです。
聖書の中の自尊心
聖書を見てみると、自己誇示的なプライドを持つ人物の話が多くあります。士師時代のアビメレクはテベツのやぐらの戸に近づいてそれを火で焼こうとしたときに、女が投げつけたひき臼の上石が頭に当たって重傷を負いました。その時アビメレクは急いで自分の道具持ちの若者を呼び「おまえの剣を抜いて、私を殺してくれ。女が殺したのだと私のことを人が言わないように」(士 9:54)と言いました。彼にとって女が投げた石に当たって死ぬということは自分のプライドが傷つくことでした。つまり彼は、自分がしもべのようにこき使っていた若者の剣によって刺し殺されることが、恥から逃れる道だと考えたのです。サウル王はペリシテとの戦いから逃げる途中、矢で打たれて重傷を負いました。彼は部下に剣を抜いて自分を刺すよう命じながら、「あの割礼を受けていない者どもがやって来て、私を刺し殺し、私をなぶり者にするといけないから」(Ⅰサム 31:4)と言いました。部下が応じないと、彼は自分の剣を取ってその上にうつぶせに倒れて自らの命を絶ちました。サウルは神の御名とイスラエルが侮辱されることは気にしませんでしたが、自分が矢で打たれ死にそうになったときにはプライドが傷つき自らの命を絶ちました。このような死は健全な自尊心から来た行動ではありません。
このように、類似自尊心は恐れと羞恥心によって、怒りと破壊的な行動に現れる可能性が高いのです。自分が価値ある存在であることを証明するために、いつも比較し、非常識的な言葉と行動を取るためです。その反面、健全な自尊心というものがあります。使徒パウロは健全な自尊心のある人でした。彼は何の恥じらいもなく、苦難と失敗を兄弟たちと分かち合いました。人ならば誰でも自分の弱点と失敗が公になるのを望みません。しかし、使徒パウロは「私の労苦は彼らよりも多く、労に入れられたことも多く、また、むち打たれたことは数えきれず、死に直面したこともしばしばでした。…もしどうしても誇る必要があるなら、私は自分の弱さを誇ります」(Ⅱコリ 11:23~30)と語りました。彼は健全な自尊心があったため、自慢する必要もありませんが、どうしても自慢するならと自分の弱点を自慢したのです。

生活の中で自尊心を高める訓練
では、日常において失望したとき、どのようにしたら健全な自尊心を持って生きていくことができるのでしょうか。

1.自分の弱さと力のなさを認める
デイビッド・カーソンは、自尊心(self-esteem)は理想的自我(Ego ideal)から実際自我(real self)を差し引いた価値と同じであると言います。自尊心は、実際の自分と理想の自分の差にあるというのです。
パウロは自分を神をけがす者、迫害する者、暴力をふるう者、罪人のかしら(Ⅰテモ 1:13~15)であると告白していますが、それは過去の自分であり、今は感謝していると語ります。その理由は、自分に力を与えてくださるイエスが使命を与えてくださったからです。健全な自尊心は自分の弱さや力のなさを認めることから始まります。自尊心を築く人生は自分の弱さや力のなさを認め、イエス・キリストの力の中で日々復活を選択することです。

2. 罪悪感から回復する
罪悪感の程度は自尊心の測定計であるといいます。罪に対して敏感な人ほど、罪悪感によって苦しみます。しかし罪悪感は、赦しを受けることができないという自己処罰的要素が強く残っている感情です。敏感に罪を悔い改めなければなりませんが、神に赦されないことと罪悪感によって苦しみながら自分に罰を与えることとは区別しなくてはなりません。また自分の不完全さを罪と考えて罪悪感に陥ってはなりません。
ダビデはバテ・シェバと寝た後、預言者ナタンが来て罪を指摘したとき、罪を悟り、神の赦しと恵みを求めました。なぜなら、ダビデは神が彼の罪を赦し、救いの喜びを回復してくださること(詩 51:12)を信じたからです。つまり、神の恵みと赦しに根を下ろすとき、キリストの中で救いの喜びと赦しを経験し、低い自尊心から解放されるのです。
イエスは姦淫の現場で捕らえられた女に、「わたしもあなたを罪に定めない。行きなさい。今からは決して罪を犯してはなりません」(ヨハ 8:11)と言われました。このような赦しの宣言と回復の使命が有効なみことばとして私たちに働くとき、イエス・キリストの中に自分の価値を見出すことができます。つまり、イエス・キリストの中に見出した自分の姿を日々告白しなくてはならないのです。「私は大切な存在です」「私は愛されています」「私には価値があります」というふうにです。デイビッド・カーソンは、次の祈祷文を患者に1日3回繰り返すように助言しています。これは否定的な自画像を矯正する助けになります。

私は神の子どもです。神は私を造られ、私を愛してくださっています。
私は生まれる前から、神とともにいます。その時も今も、神は私のすべてを完全にご存知です。
神はありのままの姿の私を愛してくださり、ありのままの姿の私を受け入れてくださっています。
私は受け入れられる価値があり、愛される人間です。
私は神の美しい子どもです。はかりしれない価値のある人間です。
すべての被造物は私なしでは完全ではありません。
私はユニークに創造されました。すべての点においてユニークです。
神は個性のある人として私を創造され、私を愛しておられます。
神は私をご自分のものとして選んでくださいました。
神は私の中に生きておられ、私は神の中に生きています。
神は私の中に住まわれ、私を神の子と呼んでくださいます。
神は、私が満たされ、豊かに生きることを願われます。
神は私を自由にしてくださり、私に喜びを与えてくださいます。
ただ神の恵みによって、いのちという贈り物が与えられます。
私はきょうも神の愛を受け入れます。
神が私を永遠に愛してくださることを知っています。
今ここに私がいることを神に感謝します。
私を造ってくださり、私にいのちを与えてくださったことを感謝します。
愛といのちなる主に感謝します。
(著者不明)

3.自尊心のある存在へと養育する
自分に対する肯定的な理解と安らかな感情は、幼い頃の両親の接し方によって大きく影響されることが知られています。つまり、子どもが両親から適切な愛と尊重を受けることができずに育つと、低い自尊心によって傷つきやすい成人となります。そのような人たちは周囲から認められ、愛されようとして絶えず努力するようになります。しかし努力の結果を得ることができず、すぐに自分を責め、次のような否定的な自己会話をするようになります。「~をしなくてはいけない」「~をしてはいけない」「私は~をすることができない」「なぜ~をしなかったのだろうか」「もし~をしたらよかったのに。」ほかの人たちから愛され、認められるためには、自分は十分ではないと感じるのです。しかし両親から愛を受け、認められなかったのは過去であり、私たちは神の家族の養子となり、神の子どもとして十分に愛され、認められている存在であること知らなくてはなりません。そのような神の愛と保護において、私たちは自ら自尊心ある存在へと成長する訓練を始めることができます。家族治療者であるバージニア・ セティアは『私の自尊心宣言』という文で、「私は私です。世のどこにも私と同じ人間は存在しません。私は私の夢と希望と恐怖を所有します。私は私のすべての業績と成功、失敗と過ちを所有します」と語りました。
このように健全な自尊心は、過去と現在、現在と未来、失敗と成功のすべてを持ち合わせている自分への理解に基づきます。神は私たちの弱さと力と可能性をすべて知っておられます。なぜなら「それはあなたが私の内臓を造り、母の胎のうちで私を組み立てられたからです」(詩 139:13)。ですから、私たちを作品として造られた神(エペ 2:10)を信頼し、日々信仰告白をするなら、自分とほかの人を価値ある存在と考える自尊心あふれる聖徒へと成長することでしょう。




 

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