日本伝道のビジョンと教会への提言
東京基督教大学 学長 ● 倉沢正則
昨年は、日本プロテスタント宣教150周年を記念し、もう一度、先人たちの伝道の足跡を覚えつつ、諸教派・教団、教会、諸団体の伝道協力をさらに広げ、キリストの福音を日本にいるすべての人々に宣べ伝えようと志を新たにしました。2010年は、宣教200年へのさらなる踏み出しの年と言えるでしょう。記念大会の多くで、教会の伝道力の低下や、後継者不足などが課題として指摘されました。これらを克服し、日本伝道をさらに進めるためには、教会が伝道の担い手となるよう、その体質を強めてゆく必要を覚えています。日本伝道のビジョンは、伝道的な教会を日本各地に起こしていくことです。そのためには、牧師も信徒も視点を変え、その視野を広げることが求められます。そこで、教会への提言をいくつか述べてみましょう。
1. 牧師が地域の牧師となるように 牧師の働きは教会員の霊的な指導と牧会的な配慮に集中しますが、教会を生み出す聖霊は「証しの御霊」(使徒 1:8)として教会を伝道へと地域に押し出す方です。教会がその地域に置かれているということの意義は大きく、牧師はその地域に生きる教会員の霊的指導者であるとともに、その地域をキリストに執り成す指導者でもあるのです。地域への関心を深め、どのように地域の人々と交流を広げてゆく必要があるかを主に求めてゆくことが大切です。
2. 牧師が地域に生きる信徒を伝道に励ます 聖霊は、人々にキリストを信じる信仰を与え、キリストのからだなる教会に加わらせます。そして、信仰者にキリストの恵みを溢れさせ、彼の赦しの確かさと平安を体験させ、憩わせ、その喜びを分かち合うように導かれます。そのコーチ役が牧師の務めとも言えるでしょう。「聖徒たちを整えて」(エペ 4:12)キリストに仕え、彼を証しする者とさせる役割をします。信徒に救いの喜びを確認させ、その置かれた地域でその喜びを「ことばと行い」で現すよう励まします。みことばに燃やされ、キリストから与えられた賜物が引き出され、信頼されて用いられることこそ、信徒が願っていることです。牧師自らがその見本となるとき信徒が変わることを歴史の教会は証明しています。
3. 地域にいる人々を知る 地域にいる人々を知るというとき、私たちが案外見落としているのは、在住外国人の方々です。「グローバリゼーション」と言われるように、日本の国にもすでに多数の外国人が在住し、多様な社会が形成されつつあります。日本における外国人登録者数はおよそ222万人(221万7426人:2008年)です(入国管理局統計)。彼らは異文化の中で、様々な課題を抱えて生活しています。それらの人々の「隣人となる」(ルカ 10:37)ようにとキリストは今日地域教会に求めているのではないかと思います。また、外国でクリスチャンとなった信徒(ある統計では毎年1600人)が日本に帰国したとき、教会は彼らを暖かく迎え入れることです。教会に彼らが出席しても教会文化の違い等で定着率は20-30%だと言われています。そこには様々な要因がありますが、教会が彼らを受けとめて、異文化経験をもっている彼らに在住外国人への奉仕者となるよう励ますなら、日本伝道に大きな活路となるに違いありません。
4. 地域にいる人々の必要を知る 福音的な教会の伝道観は、「たましいの救い」に重きをおき、極めて個人主義的性格の濃いものでした。しかし、人は政治経済的、社会的関わりの中で生き、それがもたらすストレスの中で精神的な苦痛にも悩まされるのであり、キリストが与える救いは、「全人」に及ぶものです。今日の少子高齢化社会がもたらす様々な問題や精神的な孤独感の中で、殺人や自殺、虐待や暴力という悲惨な出来事が多発しています。教会は彼らの避け所として開かれる必要があります。児童福祉や貧しい人々の救済がかつて教会やクリスチャンから始まったように、今日求められる福祉の働きは、改めて教会こそが果たすべきものです。福音を「ことば」のみで語るだけでなく、教会の力に応じて、地域の人々に「見えるかたち」で貢献することが、これからの日本の教会の生命線と言えます。 この働きのためには、伝道と地域貢献のための自発的集団が必要です。地域の子どもへの教育やお年寄りへのケアのために活動する集団を教会内に立ち上げる、あるいは、同じ志を持つクリスチャンが中心になって、NPOを立ち上げ、協力の輪を一般の人々にも広げてゆくこともできるでしょう。もちろん、直接的に家庭集会等を用いた伝道のための集団を作り、そのための訓練に積極的に取り組むこともできます。教会はそのような情報を信徒に伝え、励まし、支援することが大切です。
倉沢正則(くらさわ まさのり) 1952年長野県生まれ。中央大学卒業。東京基督神学校卒業。米国フラー神学校宣教学博士課程修了(宣教学博士)。東京基督教大学神学部国際キリスト教学科長、同付属共立基督教研究所長を歴任し、現在、東京基督教大学学長、同付属国際宣教センター長、教授(宣教学担当)。日本同盟基督教団正教師、日本宣教学会理事。
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