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愛を求める子どもたち |
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愛を求める子どもたち 社会福祉法人カリヨン子どもセンター理事長(弁護士・日本基督教団弓町本郷教会 教会員) ● 坪井節子
私の所属する東京弁護士会では、1986年に「子どもの人権救済センター」を開設し、以来23年にわたり、学校でのいじめ、不登校、家庭内での虐待、少年非行などの問題を抱えて苦しむ子どもたちの相談を受けています。私も相談員として、無残に傷つき、ひとりぼっちで苦しみ、死ぬか生きるかという瀬戸際に追い詰められている子どもたちの現実に驚き、打ちのめされてきました。ただ子どもの語ることばに耳を傾け、一緒におろおろするしかなく、己れの無力を痛感し、神に祈るしかないこともしばしばです。 この10年は、虐待件数が激増しています。18歳未満の子どもたちは、児童相談所が保護できるのですが、併置されている一時保護所は、常時幼い子どもたちで定員超過状態。児童相談所に助けてもらえない14歳くらいから19歳くらいまでの子どもたちからの、「今晩泊まるところがない」「もう一発だって殴られたくないから、家へ帰れない」という相談が寄せられるようになりました。この子たちの緊急避難場所がほしい、という切実な願いが生まれました。多くの弁護士、児童福祉関係者、市民らの願いがひとつになり、2004年6月、日本で始めて子どものための民間シェルター「カリヨン子どもセンター」が開設されたのです。開設から5年間で130名近い子どもが避難してきました。4分の3は、虐待から救われることなく、家族の中で耐えてきた女の子です。 親に痛めつけられ、見捨てられ、「死にたい、生きていても仕方ない」と嘆く子どもたちを、スタッフや担当弁護士が話しを聞き、一緒に食事をし、ゆっくり休ませ、医療を受けさせ、今後の相談にのります。大人を信じられない子どもたちは、様々な方法で大人を試します。暴言、ルール破り、自傷行為。虐待の後遺症で精神的な病に苦しんでいる子どももいます。私たちには、子どもの人生を解決してあげることなどできません。でもひとりぼっちにはしない、一緒に考えようという思いで、みんなで見守り続けます。するといつか、ぽっと小さな灯が、子どもの心に灯る瞬間があるのです。「こんな私も生きていていいのかもしれない。ひとりぼっちではないのかもしれない」という灯が、真っ暗だった子どもの心を照らしだします。これが子どもの、命の底支えなのです。本当にうれしい瞬間です。この灯が灯らなければ、子どもは生きていくことができないのです。そこからようやく、生きようという意欲が生まれ、生活を立て直そう、人と関わりを持とう、働こう、学ぼうという歩みが、少しずつ始まっていきます。 カリヨン子どもセンターは、クリスチャンの活動ではありません。しかし私は子どもとの対話の中で、思いもかけない場面で、神様の言葉を伝えるしかないという体験をしばしばしています。ひとりの少女に「どうして私の生きる道がきっと見つかるって言えるの?」と問われ、「あなたの命は、神様がくださった命。生きる道が備えられていないはずがないもの。私たちには、まだ見えないだけなのよ」と答えていました。また別の少女に、「どうして坪井さんは、私をひとりにしないって約束できるの?」と問われ、「だって神様が、私を決してひとりにはしないと約束してくださっているから、私もあなたにその言葉を伝えることができるの」と答えていました。両親を憎み、その血縁が厭わしい、自分は醜いと自己処罰の衝動に駆られる少女に、切羽詰って「あなたの代わりに死んでくださったイエス・キリストという方がいる。もうあなたは自分を処罰しなくていい」と訴えたこともありました。この少女はその後、教会の礼拝に一緒に出席するようになり、2年後に洗礼を受けました。 親の愛を激しく求めながら、拒まれてきた、ひとりぼっちの子どもたち。その子どもたちの渇いた、荒涼とした心に灯る灯は、神様が送られた愛以外のなにものでもないと思います。もっと単刀直入に、勇気をもって、子どもたちに神様の救いのことば、恵みのことばを伝えたいと思います。 現代の日本には、ひとりぼっちの大人たちも増えています。年間3万人もの人が自殺をしているのです。経済格差の拡大、不況、家族崩壊。孤独と絶望の中で壊れていく人々に、少しでも早く、「恐れることはない。わたしは世の終わりまで、常にあなたがたとともにいる」というイエス・キリストの言葉が届き、ひとり一人の淋しい心に、愛の灯が灯されるようにと、切に祈ります。
坪井節子 1978年3月、早稲田大学第一文学部哲学科卒業。1980年4月、東京弁護士会にて弁護士登録。1984年4月、坪井法律事務所開設。1987年11月、東京弁護士会子どもの人権救済センター相談員。東京弁護士会子どもの人権と少年法に関する委員会委員、日弁連子どもの権利委員会幹事など。2004年6月から、NPO法人カリヨン子どもセンター、2008年3月から、社会福祉法人カリヨン子どもセンター理事長。 著書:子どもたちに寄り添う(いのちのことば社)、子どもは大人のパートナー(明石書店)、弁護士お母さんの子育て新発見(草土文化)、少年法・少年犯罪をどう見たらいいのか(明石書店・共著)、子どもの人権双書⑦乳幼児期の子どもたち、⑨子どもたちと性(明石書店)、人権を考える本②子ども・障害者と人権(岩崎書店)、わたしの人権 みんなの人権・第2巻 いじめ、暴力、虐待から自分を守る(ポプラ社)、お芝居から生まれた子どもシェルター(明石書店・編集代表)、日本キリスト教団弓町本郷教会教会員。
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