マタイの福音書の恵み 156

   揺れ動かないものが真理です
 
マタイの福音書の恵み 156

揺れ動かないものが真理です
[ マタイの福音書27章11~26節 ]

ハ・ヨンジョ オンヌリ教会 前主任牧師


イエス様は、祭司長や民の長老たちの陰謀によって、ローマ総督ピラトに引き渡されました。
「さて、イエスは総督の前に立たれた。総督はイエスに尋ねた。『あなたはユダヤ人の王なのか。』イエスは言われた。『あなたがそう言っています』」(マタ 27:11)。
神の御子イエス・キリストと、この世の権力を象徴する総督ピラトが対面しました。総督ピラトがイエス様に最初に投げかけた質問は「あなたはユダヤ人の王なのか」というものでした。それは、祭司長や民の長老たちが主張した罪状でした。

罪のない救い主
私たちは、ピラトの裁判から、いくつかの重要なことを知ることができます。まず、ピラトはイエス様には罪がないことをだれよりもよく知っていたということです。ピラトは、イエス様が自分のもとに連れて来られたとき、ユダヤ人の宗教の問題として簡単に処理しようとしました。しかし、裁判を進めていくにつれ、そのような単純な問題ではないことが分かってきました。
ピラトはイエス様に「あなたはユダヤ人の王なのか」と尋ねました。するとイエス様は、実に簡潔に、しかしはっきりと「あなたがそう言っています」と答えられました。すると、ピラトは再び尋ねます。「あんなにもたくさんの証言があるのに、あなたはそれについてどう思うのか」 イエス様は、偽りの証言については沈黙されました。ピラトには、裁判を進めていくうちに、イエス様には罪がないということが分かってきました。そればかりか、法廷に立っておられるイエス様には恐れがなく、むしろ堂々と立っておられたので、ピラトはその姿に大きな衝撃を受けました。
裁判が進み、聴衆が「イエスを十字架につけろ」と叫んだとき、ピラトは「あの人がどんな悪いことをしたのか」と言いました(マタ 27:23)。その後、彼は、イエス様を十字架につけるために引き渡すときも、良心の呵責にさいなまれ、自分の手を水で洗い、「この人の血について私には責任がない。おまえたちで始末するがよい」と言いました(マタ 27:24)。これは、自分の良心とローマ法の知識によって見るとき、イエス様を死刑に処するだけの根拠を全く見出すことができなかったという意味です。
ペテロの手紙第一には「キリストは罪を犯したことがなく、その口には欺きもなかった」(Ⅰペテ 2:22)と記されています。大きな罪でも小さな罪でも、罪を犯したなら、その人は罪の代価を払わなければなりません。罪の代価は、死です。ところが、イエス様は罪のない方でした。

良心の問題に直面したピラト
この裁判から2つ目に教えられることは、裁判の過程でピラトの良心にいくつかの変化が起こったことです。第一に、真理であり、神の御子であるイエス・キリストに出会ったとき、ピラトの良心の目が開かれ始めました。権力のある人や財力のある人、この世で知恵があり賢い人を見ても、人はそれほど驚きません。しかし、罪のない人を見ると、衝撃を受けます。イエス様に出会ったピラトは、良心に衝撃を受けて戸惑いました。
「それでもイエスは、どのような訴えに対しても一言もお答えにならなかった。それには総督も非常に驚いた」(マタ 27:14)。
ピラトの良心が驚いたという意味です。イエス様が偽りの証言に対して何もお答えにならない姿を見て、ピラトはチャレンジを受けたのです。
第二に、ピラトの良心には、深刻な葛藤が生じました。彼の良心は悩み始めました。なぜなら、良心が語る通りに生きられないからです。良心が語る通りに行動できない環境や人間関係の中に置かれたとき、良心は悩み苦しみます。
「それで、人々が集まったとき、ピラトは言った。『おまえたちはだれを釈放してほしいのか。バラバ・イエスか、それともキリストと呼ばれているイエスか』」(マタ 27:17)。
ピラトが罪のないイエス様を釈放しようとしたことは、だれの目にも分かる事実です。しかし、彼は今、良心の命令に従って決定することができない状況にいました。祭司長や民の長老たちが大衆を扇動して政治的な圧力を加えていたからです。ピラトは、自分の統治下で多くの失敗を犯していたため、ローマ皇帝によって更迭されかねない状況にありました。祭司長たちや民の長老たちは、そのことをよく知っていました。人の弱点をよく知っているサタンは、そこを突いてその人を縛ります。目的はだた一つです。「おまえがイエスに死刑宣告を下せ」というのです。ピラトは悩み苦しみました。

良心には力がありません
第三に、ピラトの良心は、葛藤と苦しみの領域を通り過ぎて現実と妥協しました。
「ピラトは言った。『あの人がどんな悪いことをしたのか。』しかし、彼らはますます激しく叫び続けた。『十字架につけろ』」(マタ 27:23)。
ピラトは心の中で計算しました。「自分の良心に従うべきか、それとも良心に背くべきか。もし良心に従えば、どうなるだろうか。おそらく民が反乱を起こすだろう。そうなれば、自分の立場は追い詰められる」
良心自体に力はありません。良心には、私たちを目覚めさせ、正しいことを教える力はありますが、良心に従わせる力はありません。そのような力は、真理と永遠のものにあるのです。ですから、良心だけを信じて生きる人は、いつか妥協し、やがては自分の願っていない道を歩むようになります。
第四に、ピラトは現実と妥協した結果、良心が麻痺し、その後、真実に対して沈黙してしまいました。
「そこでピラトは彼らのためにバラバを釈放し、イエスはむちで打ってから、十字架につけるために引き渡した」(マタ 27:26)。
結局ピラトの良心は、決定的な瞬間に負けてしまいました。彼は、権力者を満足させるために祭司長や民の長老たちの顔色をうかがい、民の反乱を恐れて判決を下したのです。このようなピラトの法廷は、今の時代の法廷の姿そのものです。
また、私たちはピラトの姿に人間の良心の現実を見ます。人間の良心とは何でしょうか。人間の良心の役割とは何でしょうか。ここに、私たちは良心の限界を見ます。神様を否定する多くの人は、「私は自分の良心を信じる。正義を信じる」と言います。しかし、良心と私たちが言う正義や善が、私たちを救えるでしょうか。脅かしや圧力などがないときは、良心が働きますが、実際、自分の財産やいのちを脅かす出来事が起こり、利害関係がもつれれば、良心は麻痺し、妥協してしまうのです。良心は、いのちを懸けて考えを貫くだけの力を与えてはくれません。良心は、真理によって光を放つ電灯のようなものにすぎません。私たちが謙遜にイエス・キリストを受け入れ、真理として信じなければならない理由がここにあります。

真理であるイエス・キリスト
私たちは、真理であられるイエス・キリストを受け入れなければなりません。人間の道徳や良心、ヒューマニズムは、私たちを救うことはできません。私たちは生まれながらの罪人です。最も愚かな人は、電灯だけで光を出そうとする人です。電灯で光を照らすためには、電源を入れなければなりません。
ローマ人への手紙で、使徒パウロがこの問題を次のように表現しています。
「私には、自分のしていることが分かりません。自分がしたいと願うことはせずに、むしろ自分が憎んでいることを行っているからです」(ロマ 7:15)。
良心が敏感である人ほど悩みが多く、道徳的に生きようと努力する人ほど「善を行いたいけれど、善を行うことができない」と告白します。おかしなことに、自分が願わない悪ばかり行ってしまうのです。良心がそのことを知っていたので、パウロは次のような告白をしたのです。
「私は本当にみじめな人間です。だれがこの死のからだから、私を救い出してくれるのでしょうか」(ロマ 7:24)。
これは、ピラトの悩みでもありました。私たちは、ピラトを単に悪者だとののしることはできません。なぜなら、彼の姿は私たちの良心の問題でもあるからです。いのちと御霊の律法がなければ、どのように人間の罪と死の律法から私たちを解放することができるでしょうか。イエス・キリストの真理がなければ、どうして私たちが救われることができるでしょうか。
人間の道徳は、妥協し、麻痺し、沈黙します。そのため、私たちは願わない決定をし、願わない道を歩むようになるのです。それを止めることのできる方は、イエス・キリストだけです。イエス・キリストのうちにいる者は、罪と死の律法から解放されるからです。
「なぜなら、キリスト・イエスにあるいのちの御霊の律法が、罪と死の律法からあなたを解放したからです」(ロマ 8:2)。
私たちは、キリストに導く養育係として与えられた律法の下にとどまらず、キリストにつくバプテスマを受けなければなりません。キリストを着て、新しく生まれなければなりません(ガラ 3:24~27)。そのためには、謙遜と従順が必要なのです。


祈り
父なる神様。私たちはピラトの裁判を通して、人間の良心と道徳と善の限界を見ました。主よ、私たちをあわれみ、キリストとともにバプテスマを受けて新しい人とされ、キリストをまとう者となれるようにしてください。私たちがこの世で生きるとき、良心が苦しみ、悩み、現実と妥協しようとします。真理であるイエス様、私たちを捕らえ、真理に従って生きられるよう導いてください。イエス様の御名によって祈ります。アーメン。



 

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