クリスチャン人生論 ⑫

   神の国 人生最高の目的
 
ユ・スンウォン デトロイト韓国人連合長老教会 主任牧師


「なぜ生きてるかって? さあね」
詩人キム・サンヨンの『南に窓を』という詩の結びの言葉です。「人生なんて、こんなもんでしょ」という余裕すら感じられます。ごはんを食べ、水を飲み、風の吹くままに生きて日が沈めば寝るという、気ままな人生を表しています。しかし、ただ笑ってやり過ごすことは、なぜ生きているのかという質問に対する答えにはならないでしょう。格好良く見えることも、適当にはぐらかすことも、真理ではないからです。風に吹かれるままに生きる人生が、真の人生ではないからです。イエスに「なぜ生きるのですか」と質問したなら、何と答えられるでしょうか。

人生の目的、まず神の国!
イエスがサマリヤの女を伝道した後、弟子たちが昼食の準備をして食事を勧めます。その時のイエスの反応は、意外なものでした。「わたしには、あなたがたの知らない食物があります」(ヨハ 4:32)。不思議がる弟子たちに、イエスが説明されます。「わたしを遣わした方のみこころを行い、そのみわざを成し遂げることが、わたしの食物です」(ヨハ 4:34)。つまり、普通の人はパンを食べて生きていますが、イエスは「使命」を食べて生きているというのです。イエスの人生の目的は、神の御心を全うすることでした。それで、イエスは十字架で息を引き取られる時に「完了した」と宣言されたのです(ヨハ 19:30)。では、イエスの人生のすべてであった神の御心とは何でしょうか。
イエスは公生涯を始める時、単刀直入に宣言されました。「時が満ち、神の国は近くなった。悔い改めて福音を信じなさい」(マコ 1:15)。これがイエスを遣わされた神の御心であり、イエスの人生と働きの要約です。つまり、神の国を成就することです。「ほかの町々にも、どうしても神の国の福音を宣べ伝えなければなりません。わたしは、そのために遣わされたのですから」(ルカ 4:43)。そのため、イエスはこのように祈られました。「天にいます私たちの父よ。御名があがめられますように。御国が来ますように。みこころが天で行われるように地でも行われますように」(マタ 6:9~10)。
イエスの教えも、神の国でした。代表的なたとえである「種を蒔く者のたとえ」は、「神の国の奥義」(マコ 4:11)を語っています。たとえのほとんどは、神の国の性格を理解させるためのものでした。「天の御国は、からし種のようなものです」(マタ 13:31)。「天の御国は、畑に隠された宝のようなものです」(マタ 13:44)。イエスの弟子たちが彼らの人生において最優先にすべきものも、神の国でした。「神の国とその義とをまず第一に求めなさい」(マタ 6:33)。だれかがイエスになぜ生きているのかと尋ねるなら、イエスは一瞬もためらうことなく「神の国のために」と答えられるでしょう。では、神の国とは何でしょうか。

神の国の意味
士師ギデオンがミデヤンのしいたげからイスラエルを救った時、人々が来て懇願しました。「あなたも、あなたのご子息も、あなたの孫も、私たちを治めてください。あなたが私たちをミデヤン人の手から救ったのですから」(士 8:22)。まだ王がいなかったイスラエル人が、ギデオンに世襲王朝を開くことを要求したのです。意外にもギデオンは彼らの要求を拒み、告白的な宣言をします。「私はあなたがたを治めません。また、私の息子もあなたがたを治めません。主があなたがたを治められます」(士 8:23)。これこそ「神の国」の概念です。人が治めるのではなく、神が治められる国なのです。
結局、イスラエルは、サムエルの晩年に再び人間の王を求めました。「どうか今、ほかのすべての国民のように、私たちをさばく王を立ててください」(Ⅰサム 8:5)。
これは、神から離れて自分たちの好き勝手に行動する人間が結集する方法です。神は彼らの潜在意識を暴かれます。「主はサムエルに仰せられた。『この民があなたに言うとおりに、民の声を聞き入れよ。それはあなたを退けたのではなく、彼らを治めているこのわたしを退けたのであるから』」(Ⅰサム 8:7)。私たちの意識の深いところには、神に仕えようとしない悪い心が渦巻いています。これが「罪」の本質です。
アダムとエバが善悪の知識の木の実を食べたことも、神のようになるというサタンの嘘に心が揺らいだからでした。「あなたがたがそれを食べるその時、あなたがたの目が開け、あなたがたが神のようになり、善悪を知るようになることを神は知っているのです」(創 3:5)。王である神の座を過小評価していたのです。
バベルの塔を築いて天に届こうとした時の動機も同じです。「さあ、われわれは町を建て、頂が天に届く塔を建て、名をあげよう。われわれが全地に散らされるといけないから」(創 11:4)。これが、神の座を人間が占領しようとする人本主義のイデオロギーです。
イエスのたとえに出てくる家出した弟息子は、王なる神の家を離れた人間の高慢な自由独立宣言の象徴です。「私は天に対して罪を犯し……ました」(ルカ 15:18)。神の統治から離れることが、罪の本質です。使徒パウロはこれを「彼らが神を知ろうとしたがらない」と定義しました(ロマ 1:28)。人間の王を求める心の底には、自分が世の王でありたいと願う、エデンの園から始まった不従順があるのです。
そのようにして建てられたイスラエルの王政は、王国分裂後、BC586年にユダのゼデキヤ王が両目をつぶされてバビロンに連れていかれるまで続きました(Ⅱ列 25:7)。神が喜ばれない制度でしたが、イスラエルの民の要求によって許された「人間王の制度」は、そのようにして聖書の中で最終的に失敗判定を受けます。イスラエルの真の王は神だからです。「神だけが王である」ことが聖書の精神です。イエスは、そのような「神の国」のために来られ、このために死なれ、よみがえられました。

だれが王なのか
罪の本質は、王である神に対する反逆です。罪のかたちは、殺人、姦淫、盗み、偽り、憎しみ、ねたみ、不平、貪欲、高慢、不義などたくさんあります(ロマ 1:29~31)。しかし、罪の本質は、王である神をあがめず(ロマ 1:21)、神が王であること、つまり神の統治を拒み、自分自身が王になるか、神以外のものの支配を受けることです。イエス・キリストが来られたのは、王のように人間を支配している罪と死を追い出し、再び神が王となり、人間を恵みによって支配するためでした(ロマ 5:14~17)。
そのためにイエスが王として来られたのです。イエスは、東方の博士たちに拝まれる王としてお生まれになり(マタ 2:2)、十字架で「ユダヤ人の王」という罪名で死なれ(マタ 27:37)、後には全宇宙を治める王の王、さばきの王として再び来られます(マタ 25:34、黙 19:11~16)。そして今、私たちはイエスを私たちの心に受け入れ、「主」と告白することで救われました。「主の名を呼ぶ者は、みな救われる」(使 2:21、ロマ 10:13)。イエスを受け入れるとは、自分は心の王座から下り、神をその王座にお迎えすることです(ガラ 2:20、黙 3:20)。神の国はキリストによってすでに成就され、今も成就されており、後に完全に成就されます。神の国は、過去の成就と現在の進行と未来の完成を包括しています。「神の国」(ユダヤ的なマタイの福音書では、「神」という直接的な言及を避けるために、「天」という換喩法を用いて天国と表現)は、よく誤解される「天堂」や「極楽」ではありません。イエスはおっしゃいました。「わたしが神の御霊によって悪霊どもを追い出しているのなら、もう神の国はあなたがたのところに来ているのです」(マタ 12:28)。サタンが王として君臨することが中断され、神の支配がなされるなら、今そこに神の国、つまり天国が成就しているという意味です。

私の人生の目的、神の国
私の心を神が支配されるなら、私がいる場所が神の国です。私たちの家庭は神が王となるようにしましょう。そうすれば、私たちの家庭が神の国です。職場でも社員全員が神を王とするなら、そこが神の国です。これがイエスが「神の国とその義とをまず第一に求めなさい」と命じられた意図です。信仰は、来世を見つめて現在の人生を放棄する現実逃避ではありません。現在に神の統治がなされるための苦しい戦いです。神がイエスの弟子である私を置かれた時間と空間のすべての領域で、王である神の統治がなされるための追求と探索と試みの命令です(マタ 7:7~8)。
これは、私たちが勉強するときに、神が王になられることです。私たちの家庭の主人がキリストになるように差し出す努力です。私たちが仕事をするときに、神の御心がなされるようにすることです。私が属する社会において、神が望まれることをなすための勇敢な戦いです。遊ぶときも、神が王となるようにしましょう。私が人を愛するときも、神が主導者となられるようにしましょう。だれかに、なぜ生きているのかと尋ねられたら、笑顔で、落ち着いていながらも、きっぱりとした声で答えてください。「神の国! 御心が天で行われるように、地でも行われるためです!」


信仰は、来世ばかりを見つめる現実逃避ではありません。
現在に神の統治がなされるようにする神の国の戦いです。

なぜ生きているのかと尋ねられたら、
きっぱりとした声で答えてください。
「神の国!御心が天で行われるように、
地でも行われるためです!」

 

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