マタイの福音書の恵み 91

   口から出るものに気をつけなさい [ マタイの福音書15章10~20節 ]
 
オンヌリ教会 前主任牧師 故 ハ・ヨンジョ

「しかし、口から出るものは、心から出て来ます。
それは人を汚します。悪い考え、殺人、姦淫、不品行、盗み、偽証、
ののしりは心から出て来るからです」(マタ 15:18~19)。


きょうのみことばを見ると、イエス様はパリサイ人と律法学者だけでなく、多くの群衆を呼び集めて驚くべきみことばを語っておられます。イエス様は「聞いて悟りなさい」(マタ 15:10)と言ってから衝撃的で革命的なことを語られます。「口に入る物は人を汚しません。しかし、口から出るもの、これが人を汚します」(マタ 15:11)。
これは、口に入る物の中に汚れた物はないという意味です。つまり、実際に汚れているものは、口に入るものではなく、口から出るものだというのです。しかし、弟子たちはその意味が理解できず、ペテロがみことばの意味を説明してくださいとお願いします。するとイエス様は次のように説明されました。
「口に入る物はみな、腹に入り、かわやに捨てられることを知らないのですか。しかし、口から出るものは、心から出て来ます。それは人を汚します」(マタ 15:17~18)。
実にシンプルな真理です。ところが、このみことばは、パリサイ人やそこにいた多くのユダヤ人たちに大きな衝撃を与えました。なぜでしょうか。
第一に、そのことばが彼らの信仰の根本を揺るがしたからです。その当時、パリサイ人や律法学者のようなユダヤ人たちは、神様に仕えるために、いのちをかけて旧約にあるすべてのみことばを守っていました。特に、レビ記11章や申命記14章3~21節に記されている「汚れたものは食べてはならない」という戒めを最善を尽くして守っていました。神様の前に正しく立つために、食べ物を食べる前には手を洗わなければならず、食べて良いものと食べてはならないもの、触れてよいものと触れてはならないものを、厳格に区別していました。イエス様は、彼らがそれほど厳しく守っていたおきては意味がないと宣言してしまったのです。ですから、彼らにとってそれは、どれほど大きな衝撃だったことでしょう。
第二に、パリサイ人たちが考えもしなかった点を指摘されたからです。イエス様は、人を汚すものは、ある種の食べ物を食べたかどうかではなく、どんな考えをしたかにかかっていると言われました。「食べ物の問題は、実はなんでもない。それは食べても大丈夫だし、食べなくても問題ない」と言われたのです。イエス様のみことばは、食べ物が人を汚すのではなく、人の口から出るものが人を汚すというのです。口から出るものとは、心から出るものです。
イエス様は具体的に説明されます。「悪い考え、殺人、姦淫、不品行、盗み、偽証、ののしりは心から出て来るからです」(マタ 15:19)。
真に人を汚し、神様の前に出られないようにするものは口から出るもので、それは心の中の考えから出てくるものです。その第一が、悪い考えです。自分の心をじっくりと振り返ってみると、悪い考えが絶え間なく湧き出てくるのがわかります。道徳や倫理、教養、理性によって一時的に抑えているから出てこないだけで、実は心の奥底に悪い考えがいつもうごめいているのがわかるのです。人間の心の根に悪い考えがあるからです。
それだけでなく、イエス様は人間の心の奥底に怒りや憎しみ、殺人があると言われました。また、絶え間なくわき出る貪欲や所有欲、人よりも成功したい衝動などが心の根にあります。イエス様はそのようなものを汚れたものだと言われました。つまり、それは「手を洗うか洗わないか、その食べ物を食べるか食べないかが重要ではない。心の根に悪い考えがあることが問題だ」という意味なのです。
しかし、ほとんどの人たちは、この悪い思いを隠しています。そして、自分には悪いところがなく、悪いのはみなだれかのせいだと言います。自分の過ちだと言う人はひとりもいません。自分の責任であり、自分のうちにある罪のために、このような結果になったとは言いません。全部何かのせいにします。まさにこれが罪です。最も深刻な罪は、私たちの心の中にあります。悪い考えや殺人、姦淫、不品行、盗み、偽証、ののしりのような、狡猾な考えが人間の心を捕らえているのです。
エレミヤは「人の心は何よりも陰険で、それは直らない」(エレ 17:9)と言いました。自然を汚染させたのも、国をこのようにしたのも人間です。制度ではなく、険悪な人間の心が問題なのです。罪の根は、外にあるのではなく、私たちの内側にあります。このようなイエス様のみことばに、ユダヤ人たちは深い衝撃を受けざるをえませんでした。
「そのとき、弟子たちが、近寄って来て、イエスに言った。『パリサイ人が、みことばを聞いて、腹を立てたのをご存じですか』」(マタ 15:12)。弟子たちにとってもこのみことばが衝撃的だったので、イエス様のことを心配しました。しかし彼らの心配にもかかわらず、イエス様はさらにはっきりと語られました。
「わたしの天の父がお植えにならなかった木は、みな根こそぎにされます。彼らのことは放っておきなさい。彼らは盲人を手引きする盲人です。もし、盲人が盲人を手引きするなら、ふたりとも穴に落ち込むのです」(マタ 15:13~14)。イエス様は、パリサイ人たちのことを、神様のみことばを正しく理解できない霊的な盲人だと言われました。自分では目が見えると思っていますが、実際は盲人なのです。そして、自分は霊的な指導者であり、霊の目が開かれていると錯覚しています。盲目な彼らによって導かれる民は、穴に落ちるしかありません。
このような危機は、今日の教会とクリスチャンたちの中にも見られます。主の力強いみことばに集中せず、伝統や教派、教理、教会の主導権争いに縛られている人たちが、自ら霊的指導者だと言っているのです。そんな人たちが信徒たちを教え、教会を導いているのです。イエス様のみことばがどんなに恐ろしいものか、私たちはしっかりと聞かなければなりません。
ここで私たちは2つの結論を得ることができます。第一に、信仰生活を正すためには、私たちが持っている概念を崩さなければなりません。聖書のみことばを画期的に受け取らなければなりません。自分の考えに聖書を付け加えるのではなく、みことばの前で根本的に自分をくつがえさなければならないのです。自分を全面的に変えない限り、みことばが自分に対して力を発揮しません。
もちろん私たちは、聖書中心、イエス・キリスト中心の信仰生活をしようと努力します。しかし、もしそこで満足しているなら、私たちはまた別のかたちの人間の言い伝えや伝統に縛られることになるでしょう。私たちはどんなときも謙遜になり、自分の心をみことばによって照らしてみなければなりません。きのう恵みを受けたからといって満足してはなりません。1か月前に受けた恵みで生きている人がいますが、それは間違っています。10年前に受けた恵みで生きている人は、すでに伝統や言い伝え、人間的な考えに縛られてしまっている人です。日々、瞬間瞬間、聖霊にあって、みことばにあって、新しく立たなければなりません。きのう聖書的だったことが、きょうは伝統的なものになるかもしれないからです。
そして、自分自身と教会の中に、人間的で形式的な伝統の産物があるなら、そこから大胆に脱出しなければ、私たちの信仰はその伝統とともに死んでしまいます。すべてのことを当然のものとして受けとめるのではなく、それが聖書的であるかどうかをもう一度確認しなければなりません。それを忘れれば、再び人間的な伝統や言い伝えを作り出すことになります。
第二に、心に真の変化が起こることを切実に求めなければなりません。手を洗ったかどうか、説教する時にガウンを着るかどうかが重要なのではありません。人間の心にある罪や否定的な汚れがきよめられることが重要です。聖霊の火で燃やし、イエス・キリストの血潮で洗い、私たちの心にある、汚れた貪欲なあらゆる考えを根本的にえぐり出さなければなりません。一時しのぎのものではいけません。私たちの心の中にある罪の根をえぐり出さなければなりません。そうしてこそ、神様の前に正しく正直な姿で立つことができるのです。

 

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