クリスチャン人生論 ⑤

   キリスト論:キリストの人性と神性 ありふれた名イエス、尊い名イエス
 
ユ・スンウォン デトロイト韓国人連合長老教会 主任牧師


名前はむやみに取り扱ってはいけません。名前は、その人の存在を表すものだからです。イエスの「主の祈り」の最初の祈りが「ねがわくは御名をあがめさせたまえ」であったことには、大きな意味があります。古代ユダヤ人は、聖書にイスラエルの神の名(hwhy)が出てくると、それを発音するのをためらい、代わりに「アドナイ」(私の主)と読みました。そのため、ラテン語でテトラグラマトン(神聖四文字)という学名がつけられているこの単語(hwhy)の発音は歴史の中で忘れ去られ、“ヤハウェ”なのか“ヤーウェ”なのか、今は確認することができません。
このように、神の御名は尊ばれてきました。イエスの御名も同様です。それは「すべての名にまさる」尊い名です(ピリ 2:9)。しかし、その名の歴史には、単純に語ることのできない何かがあります。

ありふれた名イエス
イエスという名は、旧約のヨシュア(「主は救い」という意味)と同じ名です。この名は、バビロン捕囚期以後、「ヨシュア」に単純化されました(エズ 2:2)。当時、ギリシャ語に翻訳された旧約聖書『70人訳』は、名前を音訳して「イェースース」(VIhsou/j)と表記しました。そのため、「イエス」は、「ヨシュア」をギリシャ語に音訳した名です。
この名前は、1世紀前半までは、非常にありふれたものでした。私たちとは違い、姓のなかった聖書時代のユダヤ人は、父親や叔父の名前を受け継ぐことがよくありました(ルカ 1:61)。最近、死海付近で発見されたある女性の相続関連の裁判記録を見ると、夫の名前もイエス、しゅうとの名前もイエス、息子の名前もイエスでした。古代ユダヤ教の弁証書である『アリステアスの手紙』によると、『70人訳』を翻訳した72人のユダヤ人学者の中には、イエスという名の人が3人もいました。1世紀のユダヤ歴史家ヨセフスの書には約20人のイエスが登場し、そのうち、著者と同時代の人物であるイエスだけでも、10人になります。パウロがサラミス島で出会ったにせ預言者の「バルイエス」という名前は、イエスの子という意味です(使 13:6)。もちろん、その魔術師が私たちの主イエスの子でないことは、言うまでもありません。

珍しくなった名イエス
ありふれていたイエスという名前が、1世紀後半頃から文献から消えていき、ほとんど登場しなくなりました。果たして1世紀後半に、この「イエス」という名前に何が起こったのでしょうか。
まず、イエスを憎んでいた伝統的ユダヤ人にとって、「イエス」は聖なる神を異邦人と関係をもたせた異端のかしらであったため、自分の子をその名前で呼びたくなかったのでしょう。ローマによってエルサレム神殿がAD 70年に崩壊し、いけにえがささげられなくなったことから、レビ族出身の世襲の祭司たちは歴史から消え、代わりに聖書の権威者としてパリサイ派の人々がユダヤ教を掌握するようになりました。そのため、AD 70年以降のユダヤ教を「パリサイ派ユダヤ教」(Pharisaic Judaism)と定義します。そのパリサイ派ユダヤ教を「ラビ・ユダヤ教」(Rabbinic Judaism)と呼び、この伝統が今日まで続いているのです。
パリサイ人がイエスをどれほど嫌っていたかは、福音書を読めばわかります。ですから、ユダヤ人は自分の子に、気楽に「イエス」という名をつけることができなかったのでしょう。

今は尊い名イエス
もう一つの理由は、イエスを信じるユダヤ人にあります。この頃からイエスを信じるユダヤ人にとって、「イエス」という名はあがめる対象になりました。
イエスが復活されてから、弟子たちが集まってイエスの名で教会が建てられ、イエスが礼拝の対象になりました。イエスの名が「すべての名にまさる名」になったのに、だれが自分の子に礼拝の対象である神の御子の名をつけることができるでしょうか。それはイエスを信じるユダヤ人にとって、十戒の第三の戒めを犯すことと同じような印象を与えました。神が用いられた名であるため、人間が用いるべきではないと考えたのです。こうして「ありふれた名イエス」は「尊い名イエス」となりました。この歴史的ハプニングこそ、イエスがどのような方であるのかを如実に示しています。
「イエス・キリスト」の来臨は、いと高き神であられ、私たちが口にすることさえ恐れ多い神が、太郎や花子というような、ありふれた名前で呼ばれるようになった出来事です。神が太郎や花子になられたのです。なぜでしょうか。太郎や花子を救うためです。神が太郎や花子を非常に愛し、太郎や花子を救うために、太郎や花子と同じ存在になるために、低く卑しいこの地に来られた出来事が受肉なのです。
ピリピ人への手紙2章6~8節は、キリストの「ケノーシス(無にすること、へりくだり)」を現した聖句で、当時の教会で歌われていた賛美の歌詞にもなっていました。「キリストは神の御姿である方なのに、神のあり方を捨てられないとは考えず、ご自分を無にして、仕える者の姿をとり、人間と同じようになられました。人としての性質をもって現れ、自分を卑しくし、死にまで従い、実に十字架の死にまでも従われました」

神は「モノゲネース」
人は神を知りません。神がおられるということは、ぼんやりと推測できても、実際にその方を正しく知ることはできません。人が神を知ることのできる方法は、一つしかありません。神がご自分を示してくださることです。これが「現す」という意味の「啓示」(revelation)です。開いて見せるという意味です。
私たちは、啓示されたことだけを知ることができます。「隠されていることは、私たちの神、主のものである。しかし、現されたことは、永遠に、私たちと私たちの子孫のものであり、私たちがこのみおしえのすべてのことばを行うためである」(申 29:29参照)。
神は私たちにご自分を啓示されました。自然、歴史、良心など、様々な部分や方法で語られました。「神は、むかし父祖たちに、預言者たちを通して、多くの部分に分け、また、いろいろな方法で語られましたが」(ヘブ 1:1)。しかし、それらはすべて部分的なものです。また、人間の罪と主観によってそれは屈折し、正しく把握できずに歪められてしまいがちです。そのため、神は、終わりの時にご自分の子を通して語られました(ヘブ 1:2)。私たち人間が受けることのできる最善で最高の啓示として、ご自分の御子を遣わされたのです。それがイエスです。
イエスは神の御子です。しかし、「神の御子」とは、一体何なのでしょうか。ギリシヤ・ローマ神話のように、神々が妻をめとってその間に生まれた子だと考える人はいないでしょう。それは、人間的な方法で生まれた子どもであって、神の御子ではありません。「神の御子」が意味することを最もうまく説明している単語は、「ひとり子」です。
「ことばは人となって、私たちの間に住まわれた。私たちはこの方の栄光を見た。父のみもとから来られたひとり子としての栄光である。この方は恵みとまことに満ちておられた」(ヨハ 1:14)。「神は、実に、そのひとり子をお与えになったほどに、世を愛された。それは御子を信じる者が、ひとりとして滅びることなく、永遠のいのちを持つためである」(ヨハ 3:16)。
「ひとり子」と訳されたギリシャ語は、「モノゲネース」(monogenh,j)です。ひとり子を指すとき、この単語が使われました。しかし、神が、どこかの家のように、跡継ぎを得るのが難しく、子どもをひとりしか持つことができなかったという意味でイエスをひとり子と呼んでいるのではありません。字義的には「その方から出られた唯一の」という意味です。
すべては神から来ました。しかし、特に「その方の本質からその本質をそのまま持ってきた唯一の人」という意味で、「モノゲネース」を使っているのです。
ヨハネは、これをもう少し詳しく説明しています。「いまだかつて神を見た者はいない。父のふところにおられるひとり子の神が、神を説き明かされたのである」(ヨハ 1:18)。人間の中で唯一神の本質をそのまま受けて来られた方という意味です。神の子がひとりしかいないため、ひとり子というのではないのです。
つまり、神が人間になられた唯一のケースだという意味が、この「モノゲネース」です。神が人間になられた別の例はありません。ただイエスだけが唯一、神が人間になられたという意味で「モノゲネース」です。
神のふところ(本質)から来られた方は、イエスだけです。それが「神の御子」という言葉が表している意味です。神が人となられた方がイエスなのです。
「御子は神の栄光の輝き、また神の本質の完全な現れであり、その力あるみことばによって万物を保っておられます。また、罪のきよめを成し遂げて、すぐれて高い所の大能者の右の座に着かれました」(ヘブ 1:3)。
神はなぜそのようにされたのでしょうか。なぜ「モノゲネース」となって来られたのでしょうか。私たちは、罪のために神に近づくことができなくなり、神を知ることができなくなったので、神が私たちのかたちとなって私たちのところに直接来られたのです。世のほかの宗教は、救いのために「人間が神を捜す」のですが、キリスト教だけは「神が人間のもとに来てくださった」ことを知らせる啓示の福音です。

「イエス・キリスト」の来臨は、私たちが口にすることさえ恐れ多い神が、太郎や花子のようなありふれた名前で呼ばれるようになった出来事です。

世のほかの宗教は救いのために「人間が神を捜す」のですが、キリスト教だけは「神が人間のもとに来てくださった」ことを知らせる啓示の福音です。

 

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