オンヌリ教会長老 チェ・ドソン
お金というものには奇妙な特性があります。なければ生きていけず、多ければ問題が生じます。お金は、あればあるほどさらに欲しくなり、お金があればできないことはないほど、人の行動を支配します。金塊を二つ見つけて一つずつ分けた兄弟が、兄弟関係が壊れていく自分たちの姿に気づいて、川に金を投げ捨てたという童話は、お金の悪魔的な性格をよく表現しています。 永遠のいのちを受けるために、戒めをよく守っていた金持ちの役人に、イエスは「あなたの持ち物を全部売り払い、貧しい人々に分けてやりなさい。…そのうえで、わたしについて来なさい」(ルカ 18:18~30)と言われました。彼は、そうできなかったので悲しみ、イエスは彼を指して「金持ちが神の国に入るよりは、らくだが針の穴を通るほうがもっとやさしい」と言われました。この話は、金持ちではない人が聞いても負担に感じます。貧しくなければ神の国に入れないのでしょうか。しかし、このたとえの焦点は、金持ちは滅び、貧しい者は救われるという二分法にあるのではありません。お金は多ければ多いほど、分け与えるのを惜しむようになることを教えるたとえなのです。 不正な管理人(ルカ 16:1~13)は、やみの子ですが、賢く行動しました。主人に借りのある者たちの借金を大幅に減らしてあげました。もちろん、主人の許可なく借金を減らしたのだから、彼は正しい管理人ではありません。しかし、どうにも借りを返すことのできない人々の借金を軽くし、同時に主人の体裁を生かしたことは、ほめるべき行動でした。お金は、どのように用いられるかによって、良くも悪くも、また知恵深くも愚かにもなります。 聖書ではお金を「富」と表現していますが、英語ではマモン(mammon)です。マモンは貪欲を象徴する悪魔の名で、お金が神に代わるほど力があるという意味でつけられたものです。しかし、お金自体が悪いものではなく、ただお金を愛することが、「あらゆる悪の根」である(Ⅰテモ 6:10)と言っているのです。 お金にも良い側面がたくさんあります。お金がなくて、市場経済が維持されるでしょうか。交換の媒介手段であるお金がなければ、経済が回りません。お金は支給手段です。お金がなければ、物で代価を払わなければなりませんが、その不便さは言うまでもありません。お金がなければ、価値を計ることができません。また、お金があるから価値の貯蔵が可能なのです。お金を貸し借りすることで、未来の所得を現在に、現在の消費を未来に変換できます。 しかし、お金を愛しすぎるあまり、お金の奴隷になってしまうことは問題です。貪欲は、人をお金の奴隷にします。金持ちと貧しいラザロの話(ルカ 16:19~31)があります。金持ちはお金を豊かに使うことができませんでした。お金を良いことに用いるべきでしたが、その金持ちは、より多く所有することばかり考えていました。より多く所有しようとした理由は、そうしてこそ、もてなしを受けるからです。それで人々は、人よりも大きな家、人よりも良い車、人よりも多くの財産を、より早く持ちたがり、より高められることを渇望するのです。これが世の「所有の法則」であり、バベルの塔のストーリーです。人々は、塔を積み、その頂が天に届くようにし、名をあげようとしました(創 11:4)。さらに高くなろうと欲を出しましたが、神はその塔を散らされました。 C.S. ルイスは、貪欲は人よりも優越感を誇ろうとする傲慢さから出ると言いました。現代社会は、誇張した消費を刺激する広告やマーケッティング戦略であふれています。お金がなければ、借金をしてでも、より大きく良いものを持たせようとするのです。このような世の法則の中で、人は「神の作品」ではなく、「サタンの商品」になっていっています。世は、過度な消費をそそのかされ、自分の懐に不釣り合いな消費をします。しかし、そのように手に入れたものは、バベルの塔のように、いつか崩れることになるのです。 反面、神の国には恵みの法則が作用します。ここには、分け与えること(give)と奉仕(serve)と犠牲(lose)があります。比較と競争の原理ではなく、施しと愛の原理に基づいているのです。ここには、誇張した消費もなく、奪い取るための所有もなく、度を過ぎた借金をする必要もありません。人が持っているものがうらやましくありません。「自分が持っているもの」と「人が持っているもの」を比べるときは、いつも不満が生じますが、「自分が持っているもの」と「自分が持つ資格のあるもの」を比べるなら、感謝と幸せがあふれるからです。所有することよりも、分け与えることを先立たせ、自慢することよりも感謝し、お金の借りではなく愛の借り(ロマ 13:8)を作る、そんな社会が、健全な社会なのです。
チェ・ドソン オンヌリ教会長老 。韓東大学国際化副総長。 前)韓国銀行金融通貨委員、ソウル大学経営学教授、韓国証券研究院 院長、ニューヨーク州立大学 バッファロー経営学教授。
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