JCFN日本主事 中村千尋
「こうしてパウロは満二年の間、自費で借りた家に住み、たずねて来る人たちをみな迎えて、大胆に、少しも妨げられることなく、神の国を宣べ伝え、主イエス・キリストのことを教えた」(使 28:30~31)。『使徒の働き』の最後はこう締めくくられています。厳密には、「締めくくられている」のではなく、半ば「中途半端に話が終えられて」います。その背後には、「神の国を宣べ伝え、主イエス・キリストのことを教え」る人たちが、パウロに続いて『使徒の働き』を書き上げていくという神の意図があると読み取れるのではないでしょうか。 神の救いの約束と成就のご計画は実に美しく、絶妙です。アブラハムへの祝福の約束から始まり、イサク、ヤコブと続き、ヤコブがイスラエルと呼ばれ、その子どもたちを神の民として選び、その民に救い主の到来の下準備がなされ、イエス・キリストの誕生、十字架の死と復活、そして、約束の聖霊が送られ、教会が始まり、選ばれた民だけでなくすべての人たちへ「神の国」のメッセージが伝わるようにと計画が実行されています。 この神の緻密なご計画の中に日本人への神の思いが組み込まれ、聖書にある創造力豊かな神のみわざが日本にも続いています。その一つが海外邦人宣教であり、海外で救われた帰国者クリスチャンや、信仰が励まされた人たちの日本への「逆輸入」という方法です。 日本にいた時は近所の教会や身近にいるクリスチャンの存在に気づかずにいた人でも、海外で生活する中で「何を信じるのか」という、日本では考える機会がなかった質問に直面します。留学生活で、学校で、クリスチャンのホストファミリーとの交わりで、駐在員家族としての生活や現地人たちとの会話で、『聖書』という土台に生きる人たちと関わる機会を得、自分との相違点を考え始めるのです。そして、教会でクリスチャンと交わり、自分もその信仰を持ちたいとクリスチャンになるのです。人によっては海外に出て数日後、または帰国直前と、時期や方法はさまざまですが、神は確実に日本では経験できない事を通して、日本人がご自身と出会うよう導いておられます。そして、神のご計画は、変えられた彼らを祖国日本に「神の国を宣べ伝える者」として遣わされることです。 1990年、アメリカで行われた大学生のための2万人規模の宣教大会に参加した日本人学生約10名が、日本人宣教に関するセミナーで出会いました。彼らの多くは留学中にクリスチャンになったため、帰国後の日本でのクリスチャンとしての歩みに不安を覚えていました。その不安を共有する中で、宣教大会に参加している日本人学生がほかにいるかもしれないと、名簿から日本人らしき名前を探し、連絡を取り、大会中にもう一度集まる時を設けます。その呼びかけで留学中にクリスチャンになった学生、以前からクリスチャンだった留学生、日本で宣教師だった人など約40名が集いました。それが「アーバナ会」という、後の「JCFN(ジャパニーズ・クリスチャン・フェローシップ・ネットワーク)」の発足でした。その後、夏休みに全米を訪問し、互いのために祈り励まし合う関係を築き、それが帰国後の歩みの励ましへと繋がっていきました。それから20年以上の間、神はこの集まりを団体として組織立て、この団体を通して、海外で変えられた日本人が帰国後にキリストの体から離れないように、また、日本やその次に送られる場所で「神の国を宣べ伝える者」として用いられるよう導かれています。 海外邦人宣教での大きな課題はリーダーシップの継承です。学生伝道でも、駐在員家族への伝道でも、滞在期間が限られ人の入れ替わりが激しいために、永住者でない限り伝道に関わる中心人物も入れ替わります。しかし、それは成長の機会でもあります。子どもの成長と同じで、海外でクリスチャンとなり、成長過程の早い段階で経験したことが、その人の以後のクリスチャンとしての歩みに大きな影響を与えます。つまり、帰国後の歩みのための土台形成に繋がるのです。JCFNでは毎年、北米にいる学生伝道に関わるリーダーを中心に招待し、リーダーシップ訓練を行っています。また、帰国準備のための修養会を開催し、そのリーダーたちに企画の中心になってもらっています。訓練と実践を通し、帰国後も日本のどこであっても海外での経験を活かし、神の働き人として用いられていくことを願っています。 訓練を受けて帰国した方たちが、日本の地で、帰国者受け入れの集まりを日本各地で草の根的に導いています。帰国後の励まし合いや教会探しへの支援にとどまらず、神の召しに応答し続けるための関わり合いがなされ、この繋がりが日本宣教、世界宣教へと広がっていくことを願います。「使徒の働き」の続きが「神の国を宣べ伝える者たちの逆輸入」を通して書き記されていくことを主に期待します。
中村千尋 JCFN(ジャパニーズ・クリスチャン・フェローシップ・ネットワーク)日本代表主事。2006年、米国フラー神学校神学修士(M.Div)修了。2007年〜2013年、JCFN北米主事。2013年〜現在、JCFN日本主事。
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