日本CGNTVドキュメンタリー番組より
ケビン・シーバーは、現在、東京の聖路加国際病院でチャプレンとして働いている聖公会の牧師です。「日本に来た当時は全く日本語が話せず、初めて日本語の教科書を開いたのは飛行機の中でした」というケビン牧師は、友人に誘われて来日し、初めはビジネスマンとして働き、編集長も務めました。楽しい日本の生活はまるで放蕩息子のようだったそうです。 しかし、教会に通ううちにケビン牧師の心は変えられていきます。教会にはさまざまな国の人がいて、成功している若者も多くいましたが、みなイエスを信じていました。ケビン牧師は「どうしてこの人たちは信仰を大事にしているのだろう」という疑問を持つようになりました。しかし、教会の人々が本当に温かく受け入れ、愛情を注いでくれることによって心がいやされ始めました。「それまでも、飲みにいったりする仲間はいましたが、私を本当に大事にしてくれるような関係ではなく、私自身も周りの人を大事にしていませんでした」とケビン牧師は言います。 ケビン牧師は自分の信仰に立ち返る長いプロセスの中で、聖職者として神と教会に仕える道がゆっくり開かれていきます。そのきっかけは、ある信仰の先輩との会話でした。「あなたが救われたのは日本なのだから、日本で神に仕えなさい」と言われましたが、「え、日本ですか?」と思いました。しかし深く祈る中で、「私の願うようにではなく、神のみこころのとおりになりますように」と思えるようになり、日本で神に仕えるという召命感が強くなっていったそうです。そしてケビン牧師は現在、聖路加国際病院のチャプレンとして神に仕えています。 聖路加国際病院は、アメリカの聖公会の宣教医師として日本に派遣されたルドロフ・トイスラー医師が、東京の築地で始めた小さい診療所から始まりました。その後、総合病院として発展し、キリスト教精神のもとに全人的ケアを行っています。その中にはすばらしい礼拝堂があり、それはまるで病院の中のオアシスのような存在です。礼拝堂は、夜は暗くなりますが、鍵は閉まらないので、家族が手術を受けている間に、そこで休んだり祈ったりできます。また、点滴をしながら車椅子で来たり、ベットに横たわったまま来たりする患者もいます。 ケビン牧師は、毎日末期ガン患者などの病室を回っています。緩和ケアの病棟では、アロマテラピーや足マッサージ、音楽の演奏会などが行われています。また、リハビリルームではぬり絵の指導をしたり、午前中に入浴させるなどして、できるだけ良い時間を過ごせるよう配慮しています。中には、聖路加病院がクリスチャンの病院と知らずに来る人もいますが、そんな人たちにも、信仰がこの病院の中に根づいていることを感じてほしいという思いから、病院付属の産婦人科クリニックで、毎週火曜日11時30分から礼拝をささげています。 「弱い子羊を抱いて運んでいるイエス様。それがこの病院の医療の精神であってほしいし、それを目指しています。しかし、本当につらい思いをしている人がたくさんいるので、自分の力ではとても難しいのです。自分ではなく、本当に神の愛に抱かれないといけないのだと思います」とつぶやくケビン牧師。「この病院に入院している“ちいちゃん”という女の子がお母さんとチャプレン室にやってきて、真面目な表情で『ちいちゃんと一緒に入院していた友だちはみんな元気になって退院したのに、なぜちいちゃんだけよくならないの?何か悪いことしたから?』と涙ながらに聞くんです。私に言えることは『ちいちゃんが悪いことをしたから病気になったわけでは決してないよ』ということと『ちいちゃんは、今つらい思いをしているけれども、神様はちいちゃんをとても愛していて、いっしょにいてくださるんだよ』と言ってあげること、それしかありません。」 いのちの誕生と死の間でキリスト者として生きているケビン牧師。「このたくさんのドラマがある病院という場所で、私ができることは限られています。神の愛をしっかり信じている者として、困った人にどうやって寄り添えるかというのが課題です。どうやって苦しんでいる人に神の愛やイエスが見守ってくださっていることを感じてもらえるか、ということをいつも考えています。」 朝8時30分から毎日ささげられている礼拝には、どんな人でも参加することができます。入院している人、お見舞いに来た人、外部の人も自由に出入りできます。病院の方針とともに、その精神を人々の目に見える形で紹介しているのが、礼拝堂とチャプレンであるケビン牧師の存在です。きょうもケビン牧師は神の存在を体験できる場所で礼拝し、神と人とに仕えているのです。
|