へブル人への手紙の道しるべ

   十字架を通って恵みの御座へ
 
ビョン・ジョンギル ● 高麗神学大学院 新約学教授


へブル人への手紙をだれがどこで記したのかは不明です。文体も論理の展開も独特です。しかし、この手紙では、キリストがどのような存在かが明記されており、特に大祭司なるイエス・キリストに対して詳しく説明されています。イエスが永遠の大祭司として、ただ一度、人間の罪を贖ういけにえとなられたことにより、私たちは再び動物によるいけにえをささげる必要がなくなりました。イエスは天の御国で私たちのためにとりなしをしておられます。ですから、私たちは大祭司なるイエスの力を受けて神の御座に大胆に近づくことができるのです。
へブル人への手紙の著者が、大祭司イエスのことを強調したのは、当時クリスチャンたちの間で、大祭司職についての論議が盛んだったからです。当時の祭司はレビ族の人だけが就き、その中でも大祭司は、アロンの子孫だけが就くことができました。では、なぜユダ族から出たイエスが、大祭司になることができたのでしょうか。

私たちのためにとりなす、とこしえの祭司
このような質問に対して、へブル人への手紙の著者は詩篇110篇4節をもって答えています。「主は誓い、そしてみこころを変えない。『あなたは、メルキゼデクの例にならい、とこしえに祭司である。』」この聖句はへブル人への手紙の中で三度も引用されるほど重要なものです(5:6;7:17, 21)。ここでの「あなた」は詩篇110篇1節で「私の主」と記され、同2,3節では「主」とあります。同5節では「あなたの右にいます主」とあります。したがって、「あなた」は明らかにメシヤを指しています。メシヤであるイエスは、メルキゼデクの位に等しい、とこしえの大祭司となられました(へブ 5:10;6:20;7:26~28)。メルキゼデクは、創世記14章に登場する神秘的な人物です。その名には「私の王は義」または「義は私の王」という意味があります。「サレム」とはエルサレムのことを指し、平和という意味があります。したがって、メルキゼデクは「義の王」、「平和の王」と解釈することができます(へブ 7:1~2)。このメルキゼデクについては、その父と母がだれであるかは全く記されておらず、いつ生まれていつ死んだのかという記述もありません。ですから、メルキゼデクはまるで神の子に似た者とされたとあります(へブ 7:3)。これはメルキゼデクに親がいなかったというのではなく、聖書に関連した記述が全くないということです。創世記の中にメルキゼデクは突然現れ、戦いに勝って帰還したアブラムを迎えて祝福したとあります(創 14:17~19)。その後、歴史から姿を消しました。へブル人への手紙の著者は、聖書のこのような記述を見て、メルキゼデクが「神の子に似た者」と表現したのでしょう。
イエスがアロンではなく、メルキゼデクの位に等しい祭司であることには、いくつかの重要な意味があります。アロンの家系の祭司たちは、一人が死ぬと、また次の祭司が立てられます。その務めを行う者が変わり続けるのは、彼らが永遠に生きることのできない人間だからです。しかし、メルキゼデクの位に等しい神の御子イエスは、私たちの永遠の大祭司です。イエスは永遠に生き、私たちのためにとりなしてくださいます(7:24~25)。

私たちの弱さを実際に経験された大祭司
また、イエスは、ご自分の血によってただ一度、永遠の贖いを成し遂げられました(9:12)。子牛ややぎの血ではなく、神の御子の汚れのない血によって、ご自身をいけにえとして一度で完全に罪を取り除かれました(9:26,28)。ですから、地上の大祭司たちのように、年ごとに子牛の血をもって至聖所に入る必要がありません。
さらに、イエスがメルキゼデクの位に等しい永遠の大祭司になったということは、旧約の律法全体に大きな影響を与えます。なぜならば、主が律法制度を廃止されたことになるからです。これはいけにえの制度だけではなく、古い契約全体に変化をもたらしました(7:12;8:6~13;9:10)。ですから、私たちは律法を通して現された写しや影ではなく、実体であるイエスに仕えるのです。つまり、私たちにはこのような大祭司が与えられているということなのです。イエスは、今も神の御座の右に着座され、私たちのためにとりなしておられます。ですから、私たちはいつでもイエスから力を受け、神の恵みの御座に大胆に近づくことができるのです(4:16)。地上において私たちと同じように弱さを体験されたイエスは、私たちをあわれんでくださいます(2:14~18;4:15)。ですから、私たちは、困難や問題のただ中で、大祭司なるイエスから力を受け、恵みの御座に大胆に近づくべきなのです。これこそが、へブル人への手紙の著者が私たちに与える重要な教訓なのです。

 

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