新しい時代に向けた新しい牧会を

   被災地支援活動を通して開かれて来たもの
 
本郷台キリスト教会主任牧師 池田博


2011年3月11日、東日本大震災が起こりました。地震国日本では、いつどこで地震が起きたとしても不思議ではありません。しかし、その日本でも誰が今回ほどの大地震を予測したでしょうか。首都圏に住む私たちは、首都直下型地震、東海沖地震、そして東南海沖地震などに対する警戒や準備、避難訓練などを行って来ました。しかし、関東から北にそのような大型地震が近いうちに起きるなどとは、少なくとも公に報道されてはいませんでした。実際、東北地方の方々がどんな思いでおられたかは定かではありませんが、現実として、2011年3月11日、東日本大震災は起こりました。
この日について、私自身のことを申し上げれば、2011年3月11日の夜に行われるはずだった「国家晩餐祈祷会」に出席するため、今、まさに出かけようとしていた直前に大震災が起こったのでした。電気も交通も止まり、詳しい情報は分からない中、かろうじて車のニュースで事の重大さを知りました。現地には行くことがができないと分かり、集会は中止になり、首都圏は大混乱に陥りました。早速計画停電が始まりました。
しかし、私個人も教会も、直接の被害は受けませんでした。それだけに、今度は教会として支援体制を速やかに立ち上げて、教会員に、義援物資、義援金の支援を呼びかけました。どんどん集まり、玄関に置ききれないほどになりました。集められたものを教会のマイクロバスに詰め込み、地震発生10日後に現地入りしました。具体的な働きは日本国際飢餓対策機構との連携も取りながら、東北各地を回り支援しました。現地を3日ないし4日で回り、そのあと教会に戻り、続いて、次の便の用意をして、またほとんど車いっぱい詰め込んで出かけて行きました。人は毎回7、8人奉仕で行きました。炊き出しもしました。それが数カ月続きましたが、やがて、主の不思議な導きをいただいて、宮城県石巻市の八幡町に、ある方のご厚意によって、1軒の家を提供してくださって、そこを使わせていただくことができるようになりました。
まずその家のへドロ搔き、がれき撤去をして、手を加え改装して、「お茶っこはうす」という名を付けました。現地の方々が自由に出入りができて、誰でも気軽に立ち寄ってお茶を飲み、交流できるようにしたのです。地域の方々が立ち寄って、津波のすごさ、家族を失ったつらさなどを話して行くようになりました。
正式には、2011年8月1日に石巻市の川開きに合わせて、「お茶っこはうす」としてオープンしました。それから、ほとんどフル稼働で、毎週末ごとに現地に行き、「お茶っこはうす」を用いて、様々なイベント、集会、礼拝をやらせていただいています。こうした遠隔地での宣教活動は、本郷台キリスト教会としては、それまで全く考えていませんでした。
しかし、横浜から約450kmという遠く離れた東北の地に、「お茶っこはうす」が開かれたことを通して、主は私たちに、私たちが考えていることとは別の宣教の働きの広がりを示してくださったと思いました。そのことを通して、本郷台キリスト教会に主が開いてくださった、新たな宣教活動についてのことをお分かちいたしたいと思います。
その前に、まず、私たちの教会がここまで導かれて来ました、ビジョンの経緯を記させていただきます。私たちの教会は横浜市栄区にあります。そこは首都圏という大都会の郊外です。私たちの教会の宣教ビジョンは、教会の置かれた地域で開かれた教会として、さまざまな働きをすること、その置かれた教会の周りの人々のニーズに応えていくこと、特に弱い立場の人々の必要に応えていくことを優先に、働きを勧めてまいりました。
地域に密着して、だれでも出入りができるようなコミュニティーセンターの役割を果たすこと、そして出て行って人に仕えることです。教会は人が来るのを待つ所ではなく、出て行って人に仕える所です。そのような働きをすることを中心にして、さまざまな働きを立ち上げました。
こうした働きを通して人々との心の交流ができてこそ、人は心を開いていきます。そこからが本来の伝道になります。人はどんなに大きな悩みを抱えていても親密な信頼関係がなければ、心は開かれないのです。私たちの伝道の基本、コンセプトをここに置いたのです。ですから私たちは、まず地域に根を下ろして、人々を無条件に受け入れ、必要な助けを惜しみなく提供することを大事にしました。
ビジョンが与えられた時、神様は不思議にも一つ一つ道を備えて、切り開いてくださったのです。まず、神様はさまざまな働きができる広い土地を与えてくださいました。2千坪の土地と6百坪の建物が与えられました。そこに以下のような働きができる道が開かれ、その具体的な働きは以下のようなものです。

1. 地域作業所「まってる」
知的障がいをもつ人々(一部精神障がいの人々も)を、地域の養護学校との連携のもとで受け入れ、作業所を開設しています。障がいをもった子どもを持つ方々は、悩みを抱えているのですが、人には知られたくないのです。そういう人々にいかに届いていくかに取り組んでいます。具体的な問題への助けを推奨することで、人としての信頼のパイプが繋がって始めて、心を打ち明けてくれるのです。簡単な手作業とともに、食事作りの手伝い、畑作業の手伝いなどを行っています。

2. 「ふぁみりーサポート泉」
高齢者の福祉支援を、訪問介護を中心に行っています。食事の介助、家の掃除、移送サービス、話し相手などです。この働きは特にニーズが多く、対応に多くの助け手が必要とされます。働きにはヘルパー2級の資格が必要であるため、教会員に呼びかけて講習会を開いて多くの人が資格を取得しています。そして、フルタイム、パートタイム、中にはボランティアとして働いてくれています。今、専用の建物が建てられて、デイサービスの働きが始まりつつあります。

3. 「のあインターナショナルスクール」
8年前に聖書的世界観に基いて教育を行うためにのあインターナショナルスクールが設立されました。この理念に共鳴した生徒たちが集っていますが、ここでは又、不登校の子ども、いじめの問題あるいは障がいのある子どもの受け入れなども行っています。

4. 「ふぁみりーさぽーとのあ」
保育に欠ける子どものサポート活動や、教会だからこそできる保育等を行っています。

5. サッカースクール「エスペランサ」
今、日本の多くの教会で、子どもたちが教会学校に来なくなって来ています。閉鎖している教会も大変多くなっており、本郷台キリスト教会も例外ではありませんでした。そのための真剣な祈りがなされていた時、主からの素晴らしい答えをいただきました。
2002年のワールドカップの時、アルゼンチンから、一人の元アルゼンチン・ワールドカップ代表選手、ホルへ・オルテガさんが送られて来たのでした。この方はただ子どもにサッカーのスキルを教えるためにだけ来られたのではなく、日本の子ども、若者の多くが自殺をしているというニュースをアルゼンチンで知って、どうしても日本でサッカー指導とともに伝道をしたいと願って祈っていた時、何と本郷台に導かれたのでした。2002年12月に家族で日本に来られました。
そして2003年5月からサッカースクールがスタートいたしました。
今、現在(2013年2月)、小、中、高、合わせて約400人が与えられています。昨年には、公式戦のできるグラウンドの土地が与えられました。グラウンド整備はこれからになりますが、一つ一つ道が開かれていることに対して主に感謝しています。集まって来るのはほとんどは未信者の子どもですが、救われる子どもが、そして洗礼を受ける子どもが、次々に起こされてきています。
このような地域に根差した働きを中心に、宣教の働きをしてまいりましたが、しかし、この度、神様は私たちの教会にとって、思いもよらなかった、東北に宣教の拠点を切り開いてくださったのです。東日本大震災を通してです。最初私たちは、この働きは現地の復旧、復興のお手伝いをする一時的なものであると理解して、奉仕してきたのですが、上記のようにある方のご厚意によってなかば恒久的に働きの拠点となる建物が与えられたのです。
私たちのビジョンでは、横浜という物理的に近い半径10キロ圏内ぐらいのところでなされることを考えていたのですが、「お茶っこはうす」は横浜から450キロ離れています。行くだけで半日かかります。もし、そこで教会として本格的に宣教をしていくなら、全く新しく、腰を据えた取り組みをしていかなければなりません。それが今開かれつつあるのです。
日本の中でも東北地方は、日本のチベットと言われ、何をするにも困難なところというイメージがありました。キリスト教の宣教においても例外ではありませんでした。
東北6県のうち、教会が100以上ある県は2つだけです。礼拝参加人数の平均は6県とも20人台です。なかなか自立できないというのが現状です。私たちが関わることになりました宮城県石巻の八幡町は少し離れたところに教会があります。しかしお話を聞いたところ、牧師会を年に何回か行って6つの教会が登録はしてあるそうですが、実際は2、3の教会が集まる程度だったと言うのです。しかも震災の起こる前の牧師会で、これ以上牧師会を続けてもあまり意味がないので一旦閉じましょうという結論になっていたそうです。その直後に震災が起こったのです。
これが東北地方の一つの実態です。「お茶っこはうす」はそんな中に開かれた場所でした。私たちはそこが東北の宣教の困難な場所の一角であったなど全く知る由もありませんでした。「お茶っこはうす」のことをニュースとして、また証しとして流した時、多くの方々から反応がありました。ドイツの教会、アメリカの宣教団体、サンディエゴの教会、韓国の教会などから、祈りの支援、献金が献げられてきています。それらを用いさせていただいて、働きがさらに広がろうとしています。さらに現地に住んで働きをしていきたいという宣教師も起こされようとしています。大震災の厳しい中から、新しい福音の日が昇ろうとしているのです。


池田博
1937年東京に生まれる。高校生の時、友人に誘われて、初めて教会の礼拝に出席した。東京柴又ホーリネス教会で1958年11月に洗礼を受ける。大学の研究室に勤務していた1963年、主の召しを受け、献身する。1964年東京聖書学院入学、同校1967年卒業。1969年横浜市栄区で開拓伝道に従事。同年、登喜子師と結婚。現在、本郷台キリスト教会牧師。著書には『祈りは私を変え、教会を変える』、『イエスを十字架につけた人々』、『幸せはどこに』(いのちのことば社)などがある。

 

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