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新しい時代に向けた新しい牧会を
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習近平時代の中国の教会と世界の教会の役割 |
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チャイナネットワーク研究所所長 _ ハム・テギョン
去る11月、中国のキリスト教の未来と中国宣教に、少なからず変化をもたらす人事が発表されました。習総書記を中心とした、第5世代の最高指導部が発表されたのです。11月15日に開かれた第18期中央委員会第1回全体会議に出席した習近平、李克強、張徳江、兪正声、劉云山、王岐山、張高麗など、中国共産党の7人の政治局常務委員は、余裕の表情でした。特に「備えられた最高の指導者」と呼ばれる習近平党総書記は、前任者とは違うスタイルと話法で「責任は山のように重く、その道は長い。私たちは国民と同じ志、同じ心を持って困難を乗り越え、昼夜働き、歴史と国民の前で合格がもらえるようにする」と強調しました。 そして今年3月、第12期全国人民代表会(全人代)において国家主席、国務院総理など政府の構成員が最終的に決定します。しかし、共産党が国家を支配している「党国家体制」下の中国で、憲法上の最高機関は全人代ですが、共産党の決定が最優先になるという点においては、最高指導部の決定によって一段落ついたと言えます。習党総書記が党の中央軍事委員会の主席にも選出されたことから、名実相伴う最高のリーダーであることを国内外に知らしめました。 第5世代の指導部が決定した一週間後の11月22日、中国特有の国家公認教会である三自(自治・自養・自伝)愛国教会のシンボルである、丁光訓(愛徳基金会の理事長)が98歳で召されました。彼は、中国基督教三自愛国運動委員会(中国三自会設立)に寄与しただけでなく、長い間中国人民政治協商会議の副主席、中国三自会の名誉主席、中国基督教協会の名誉会長として活躍しました。特に「神学思想建設運動」を通して、「中体西用」という中国向けの三自神学という理論を提示しました。2008年頃から三自愛国教会のリーダーの世代交代がありましたが、彼の死は三自愛国教会の時代が公に幕を下ろしたことを意味します。この二つの事実に合わせて、習党総書記時代の宗教政策が変化する可能性を考えながら、中国の教会の将来と世界の教会の役割について考えてみるといいかもしれません。 果たして習近平時代に、西欧の価値観が受け入れられるほどの宗教の自由が実現されるのでしょうか。そこまでには時間が必要、というのが中国宣教の専門家たちの意見です。2011年アメリカ人権団体である中国救護協会(CAA)が調査した「中国家庭教会における迫害報告書」によれば、2010年には全国93ヶ所で家庭教会に対する検挙が大々的に行われ、1,289人(教会リーダー267人)が逮捕・拘束され、4人が刑務所に収監されました。拷問事件が24件、対象者は76人にも達しました。 2011年10月、チベット自治地区のラサで11人の家庭教会リーダーとクリスチャンたちが逮捕され、一ヶ月間も拘束状態にあり、蔵族語に翻訳された聖書2千冊あまりが没収されるという事件が起こりました。全国のおもな教会の指導者たちが実刑を受け、家族とともに軟禁状態で生活しなければなりませんでした。この報告書によると、北京などの大都市の家庭教会リーダーとクリスチャン法曹人、人権活動家に対する迫害がより組織的であることがわかります。このため、家庭教会リーダーたちは「中国の法律では宗教の自由が認められているとは言うが、宗教活動の自由は極めて制限されていることを知るべきだ」、また「韓国人宣教師たちが多く追放されていることがその証拠だ」と主張しています。 中国では、宗教団体は共産党及び政府の政治的な権威を認め、政府の指導を受け入れながら、党と政府の政策を観察しなければなりません。しかし中国でも、「宗教はアヘン」だという「教条主義的な宗教観」はほとんどなくなったということも明白です。また現在の中国の教会と言えば思い浮かぶ「4多」現象も、 徐々にぼやけてきています。以前の教会は若者よりも高齢者が多く、高学歴者よりも学歴のない者が多く、男性より女性のほうがはるかに多く集っていました。また教会は都市よりも農村を中心に建てられていました。しかし改革開放による経済の発展と都市化が急速に起こり、都市に集まる農村出身の労働者たちだけではなく、企業家、教授、文化人、画家、芸能人、海外留学生たちの中にクリスチャンが増え、教会の版図が徐々に変わってきています。外国留学や海外宣教師たちとの持続的な交流などを通して、牧師たちが職場宣教、家庭ミニストリー、いやしのミニストリーなどの既存の伝統家庭教会が行ったことのない訓練プログラムを、都市教会を中心に今の中国の現状に合うよう再構成し、進めています。教会の社会的責任の論議とともに「中国人による」、「中国人のための」教会と牧会のモデルケース、神学と実践方案を模索する牧会者が増えています。教会の指導者たちが相手にすべき人々の価値観や立地がずいぶん変わったため、中国における教会の役割を見直すことが重要になっています。市場経済や個性化、ブランドを追求し、インターネットやスマートフォン、グローバリゼーションなどに露出されている、「バーリンホウ(80后)」(中国で1980年代生まれの若者世代を指す言葉)に続き、「ズーリンホウ(90后)」(中国で1990年代生まれの若者を指す言葉)が社会進出を始めたことにより、1970年以前に生まれた世代とは大きな差を見せています。現在「バーリンホウ」世代の数は全体人口の7分の1を占める2億人に達しています。「ズーリンホウ」は人口の11.7%にあたる1億4千万人に至ります。これらのことが意味するのは、新世代は世のものに染まりやすいのですが、相対的に「キリスト教=外来宗教、邪教、アヘン」というイデオロギーには染まりにくいという長所があるということです。すなわちクリスチャンになることを、一つの現象として受け入れることができる文化観を保有しているのです。そのうえ、彼らが選択できる教会がますます多様になり、若くなっていることも良いしるしであります。 習近平政権の宗教政策を言及するにはまだ早いかも知れませんが、総書記に就任した後の彼の歩みを見れば推測することができます。習総書記は格式より実用とコミュニケーション、そしてイメージを優先するリーダーシップを見せています。したがって、今後の宗教政策も実用主義の路線を追い求めつつも、徹底的な法執行を通して進められるでしょう。習近平は、北京人民大会堂で開かれた憲法公布30周年記念式でのスピーチで、「共産党は必ず憲法と法律の範囲で活動しなければならない」と話し、党の幹部の任意的な判断が憲法と法律より重視されることを警戒し、法治を確固にするという意志を明らかにしました。したがって、彼が選ぶ宗教政策の基礎は、党と国家が宗教組織の統制システムを通して、教会に合法的な地位を与える代わりに、党と国家に支配される教会をさらに好むようになるでしょう。党と国家はこれ以上極端な手段で宗教を抹殺したりはせず、宗教の自由政策を通して、全国の安定と団結を維持しようとするでしょう。だからといって、党と国家が宗教領域に関する管理や支配をやめ、完全に自由にさせることはないと考えられます。 そういうわけで、第5世代指導部は、前任の胡錦涛時代の宗教政策を受け継ぎながらも、宗教勢力が独立・自主的に中国文化と歴史を理解し、社会主義市場経済の深化と葛藤構造の解決を進めることなど、中国が直面している状況にふさわしく成長していくことを望むでしょう。宗教が中国社会の不安要素にならない限り、また海外宗教勢力や不穏勢力によって中国教会が振り回されているという判断がない限り、宗教管理政策がより柔軟に運用されるという可能性があります。とはいえども、韓国を含め、海外宣教師たちの活動は、引き続き警戒されることが予想されます。そのため世界の教会は、中国のリーダーたちに、中国内のキリスト教の成長が私的な利益だけを追い求めて国家と民族に損害を与えるような存在ではない、という事実を証明しなければなりません。教会は決して国家に敵対する組織ではなく、むしろ教会の成長こそが国の平和と発展にも役立つという事実を確信させなければなりません。中国教会は公共利益を保護し、教会の行政システムがどんな組職よりも先進的であることを、社会に知らせるべきです。中国人がキリスト教を必要としているだけでなく、世界のキリスト教にも中国人が必要だからです。 世界の教会は家庭教会と三自愛国教会、両方の関係を増進させなければなりません。できる限り家庭教会と三自教会の間でピースメーカーの役割をしていく必要があります。また中国社会とキリスト教を研究する中国の学者たちとの連携も考慮すべきです。中国の学者の中には家庭教会の問題である「脱敏(タブーを破って公にしようという意見)」を主張する人々は少なくありません。キリスト教の社会的な寄与に関心を持っている専門家たちとの共同研究を通して、キリスト教が国家に背かない愛国の団体であることを知らせなければなりません。政府が弾圧すればするほど教会の火がさらに燃え上がるという歴史的な事実をあげて、政府が教会を体制内に組み入れようとする時、三自会は必ず従っていくということよりは、第3地帯のようなその他の選択肢を与えることが賢明であることをも知らなければならないでしょう。 同時に、中国の教会が世俗化に打ち勝つようにしなければなりません。中国の教会では、農村中心のリーダーと都市の新世代牧師との調和、国内外の正規神学校の学位取得者や学位のない牧会者とのパートナーシップの構築も、決して簡単ではありません。教会が徐々に大型化され、単純な説教者よりは牧師を、一般信徒の牧師よりは訓練された専門牧師を求めています。所得の不平等をはかる指標のジニ係数が、最近の中国は世界平均水準より高いという結果が出ました。圧縮成長とともに所得の不均衡などによる葛藤指数が高くなってきている結果です。世界の教会の歴史的な経験からも見られるように、中国の教会もある時点に達すれば社会安全網の役割も果たさなければなりません。中国の教会がこれらの準備ができるように、世界の教会が今までのノウハウを提供すべきです。 世界の教会が実際に中国の教会を助けられる期間は、長くても20年ほどしか残っていないことを肝に銘じておかなければなりません。特に韓国と日本は、中国と地形学的・歴史的に近いという点で、中国の教会がより健全に成長し、世界福音化の中心的役割を果たせるように協力すべき歴史的な責任を持っています。このためには、中国の家庭教会が正しく、三自愛国教会は間違っているという単純比較論理から脱して、現場が必要とする、あらゆる団体とともに働くことのできる働き人や一般信徒、リーダー、宣教師たちを育成しなければなりません。できれば、台湾などに韓国教会と日本教会、中華圏教会との協力を通じて、低コスト、高効果の宣教と牧会訓練機関を設立し、運営するのも良いと思います。中国の教会における人材開発システムを構築し、宣教師がいなくても現地の働き人のリーダーシップを活かし、ミニストリーの土着化、自立宣教も試していくべきです。そして中国の教会が何よりも必要としていることは、宣教戦略、リバイバル戦略ではなく、祈り、献身などの福音に対する熱心と情熱、世の塩と光の役割であることを決して忘れてはいけません。
ハム・テギョン 北京大学政治学博士、朝鮮半島国際大学院大学客員教授、前国民日報宗教部次長、著書に『ネバーエンディングストーリー―中国のユダヤ人7幕7章』、『中国政党政府興市場』(中国語版)などがある。
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