喜びの霊性①

   悲しみの牢獄で学ぶ喜び①
 
カン・ジュンミン ● ニュー・ライフ・ビジョン教会 主任牧師


悲しみの涙と喜びの涙は同じ目から流れます
サンドラ・スティーンは「同じ目から、喜びの涙が流れる時もあれば、悲しみの涙が流れる時もある」と言いました。同じ目で悲しみと喜びは出会います。悲しみを知らない人は喜びを知らず、喜びを知らない人は悲しみも知りません。悲しみも喜びも神の贈り物です。
「喜びの霊性」はイエス・キリストの霊性です。喜びはクリスチャンのしるしであり、聖霊の実であり、天の御国の文化でもあります。私たちが知るべきであり、経験している喜びは、何の問題もない喜びではありません。むしろ、苦しみの中で経験する喜びです。十字架を通りながら経験する喜びです。とても喜ぶことができない状況で喜ぶ喜びです。
パウロの書いたピリピへの手紙は、悲しい獄中から送ったものです。短い手紙の中に、「喜び」ということばが何度も使われています。
今日、大きな問題となっているのがうつ病です。韓国でもうつ病を患う人の数は増え、深刻な社会問題となっています。私もひどく落ち込んだことがあります。それを霊的な沈滞だと言う人もいれば、うつ病だと言う人もいました。それは、人生の旅路でも最もつらい試練でした。私は恐れと不安に捕らわれていました。さらにつらいことは、私が牧師であることです。だれにも言えない悲しみが心の奥深くで生まれたのです。罪を犯したようで、神にも正直に言うことができませんでした。イエスを信じているなら、喜びで満たされた人生を歩まなければならないのに、憂うつな様子を見せるのは罪ではないだろうかと思ったのです。
イエスを信じる人の意識の底では、クリスチャンは決して悲しんでも、憂うつになってもならないという考えがあります。私もそう思っていました。ですから、憂うつそのものよりも、憂うつはおかしいという考えがもっと私を苦しめました。
喜びを理解する前に、悲しみを理解しなければなりません。憂うつな心理状態を理解して、その正体を把握しなければなりません。そのために、私たちはもっと正直にならなければなりません。病人が、医師の前で自分の痛みを正直に話してこそ治療が可能なように、私たちはたましいの医師である神の御前に出て、心とたましいの状態をあるがまま見せなければなりません。そうするときに、いやしは訪れます。
イエスは、私たちが考えているように、いつも喜んでおられたわけではありませんでした。イエスも涙を流されました。イエスは、弱い肉の体でこの地に生まれたので、人間が経験するすべての苦しみを経験されました。寂しさ、悲しみ、失望、無力感、羞恥心、裏切られた気持ち、憂うつなどの心の苦しみを経験されました。ダビデもエリヤも心の苦しみを経験しました。
人生には、喜びを奪う現実があることを認めなければなりません。ですから、イエスを信じる者も憂うつになることがあるのです。しかし、忘れてはならないのは、神はこの苦しんでいる心をご存じであるということです。
パウロが、ピリピ人への手紙で「いつも主にあって喜びなさい。もう一度言います。喜びなさい」(ピリ 4:4)と勧めた相手は、イエス・キリストにある聖徒たちにでした。つまり、イエスを信じている人々にも、問題が起きることがあるということです。イエスを信じているからといって、自然に喜びがあふれ、歓喜にあふれる人生を歩むことができるわけではありません。
では、失望、苦悩、心配、挫折、沈滞、憂うつな心に、どのように打ち勝つことができるでしょうか。どのようにすれば、パウロのように悲しみの牢獄で喜ぶことができるでしょうか。それは、学ぶことで可能になります。パウロは、イエスを信じればいつも喜ぶ力が自動的に与えられるとは言いませんでした。むしろ、いつも喜ぶには霊的な秘訣があり、その秘訣は学ぶことができると言いました。
「乏しいからこう言うのではありません。私は、どんな境遇にあっても満ち足りることを学びました。私は、貧しさの中にいる道も知っており、豊かさの中にいる道も知っています。また、飽くことにも飢えることにも、富むことにも乏しいことにも、あらゆる境遇に対処する秘訣を心得ています」(ピリ 4:11~12)。
ここで注目すべきは、「あらゆる境遇に対処する秘訣」という部分です。パウロは、それを最も難しい試練を通して学びました。ここで、人生の牢獄には必ずしも否定的なものばかりではないということを学ぶことができます。これをしっかり学ぶならば驚くべき祝福となります。

悲しみの牢獄も喜びの場所となります
神は、私たちを深い牢獄のような現実に導かれることがあります。そして、そこで神ご自身と人生の奥義を経験するようにさせます。神に出会った人々の人生を見ると、神を経験したのは快適で楽な時ではなく、非常に苦しい状況の中でした。
パウロのような牢獄ではないかもしれませんが、今皆さんも牢獄に捕えられているような経験をしているかもしれません。皆さんは、どんな牢獄に捕えられているでしょうか。人を憎むという憎しみの牢獄、恐ろしい罪の習慣という牢獄、経済的な問題という牢獄、病という牢獄、難しい人間関係という牢獄、心配という牢獄、あるいは憂うつや沈滞という牢獄かもしれません。皆さんの状況がどのようなものであっても、望みを失ってはなりません。暗やみの中でこそ星は明るく輝き、最も暗いのは夜明け前なのです。
ウォーターゲート事件で投獄されたチャールズ・コルソンは、ニクソン大統領の特別補佐官を務めましたが、彼が神に出会ったのは刑務所の中でした。彼は著書『神を愛すること』でこのように証ししています。「私の人生におけるまことの財産は、最大の失敗、つまり私が前科者であることです。・・・勝利は失敗を通して、いやしは砕かれることを通して、自己発見は自己を捨てることを通して来るものです。」彼が自己を発見し、人生を学び、神を知るようになったのは、牢獄の中でした。ここで、神が愛する者に苦しみを与える理由を知ることができます。
きょうも、深い試練の川を通っているでしょうか。失望しないでください。神は、あなたに、世の知らない喜びを味わう祝福を与えてくださいます。では、なぜ多くの人が喜びの中に住むことができないのでしょうか。同じ環境でも、なぜある人は不満だらけの人生を歩み、ある人は喜びにあふれた人生を歩むのでしょうか。
喜びの秘訣を学ぶ前に、私たちから喜びを奪うものについて学ばなければなりません。パウロはピリピ人への手紙で、喜びを奪うものを示し、それらを乗り越える方法を教えています。

喜びを奪うもの、環境や状況
人間は置かれている環境に左右されるものです。よい環境にいれば喜び、環境や状況が変われば憂うつになるのが人間です。このような人間の姿を見通した詩人バイロンは「人間は環境のなぶりものにすぎない」と言いました。
パウロは牢獄の中にいましたが、パウロはその環境を越えた喜びの秘訣を会得していました。パウロはどのようにして環境を越えることができたのでしょうか。それは、環境を越えて、イエスの中に住まう方法を学んだためです。パウロの獄中書簡の中では、「キリスト・イエスにあって」ということばが繰り返し用いられています。体は牢獄の中にいましたが、心とたましいはキリストの中にいました。
環境の奴隷にならない方法があります。それは、私たちがいつもイエスの中にいるということを知ることです。イエスの中は最も安全で、恵みと平安が豊かにあります。パウロの喜びは、恵みと平安につながったものでした。以前のパウロは、熱心に律法を守り、律法による義についてならば非難されるところのない者だと自負する人でした。しかし、律法を守ることによっては、喜びを得ることができませんでした。律法を守ろうと努力すればするほど、律法は守ることができないと悟りました。「自分でしたいと思う善を行わないで、かえって、したくない悪を行」う自分に絶望していました(ロマ 7:19)。パウロは、道徳では救いを受けることができないことを悟ったのです。
そんなパウロが、神の恵みを経験しました。恵みによって赦され、救われ、いやされました。神の恵みを受けることで、パウロに平安が臨み、喜びで満たされました。恵みによって私たちの罪は赦され、人生は逆転し、私たちは祝福を得ることができます。パウロの喜びは、環境にあるのではなく、神の恵みの中にありました。
また、環境の中に神の摂理があることを信じたために、パウロは環境を越えて喜ぶことができました。パウロは、投獄されたことだけでなく、人生に起きるすべてのことの中に神の摂理があることを信じました。神がすべてのことを働かせて益としてくださるとパウロは信じていました。
そして最後に、パウロが環境を越えて喜ぶことができたのは、満ち足りることを学んだためです。貧しさの中にいる道や豊かさの中にいる道をはじめ、あらゆる環境で満ち足りる方法を学んだのです(ピリ 4:11~12)。パウロが満ち足りることを学んだのなら、私たちにも学ぶことができるはずです。
これまで見てきたように、パウロの喜びはキリストの中にあり、すべての状況の中に神の摂理を見出したことにありました。すべてのことを働かせて益としてくださる神の不思議なみわざを経験することにありました。また、環境を越えて、満ち足りる喜びを学びました。
次回は、人間や物が私たちから喜びを奪うということを見ていきます。


 

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