ディアスポラ日本人

   ミッショナリー・ライフ
 
フィリピン日本人教会 牧師 ● 菅原真一


なぜ、フィリピン?
結婚したばかりの頃、ある日妻が、フィリピンに住んで現地の子どもたちと仲良く遊んでいる夢を見ました。それだけならすぐに忘れたかもしれませんが、数日後、宣教師婦人に「フィリピンに重荷はない?あなたがたが子ども二人を連れて、フィリピンの街を賛美しながら歩いている夢を見たの」と言われたのです。それから約10年後、ある夜祈っていると、「まだ四か月あると言ってはいけない」という声が心に何度も響くのです。「何のことだろう?」と聖書を開くと次の個所が目に飛び込んできました。「あなたがたは、『刈り入れ時が来るまでに、まだ四か月ある』と言ってはいませんか。さあ、わたしの言うことを聞きなさい。目を上げて畑を見なさい。色づいて、刈り入れるばかりになっています」(ヨハ 4:35)。その時、主が黄金色に輝く刈り入れ時の畑を見せてくださいました。「出て行って収穫を刈り入れなさい。」

召命と沈黙
私が宣教師の召命を最初に感じたのは、大学生の時でした。クリスチャンホームに生まれた私は、小さな時から神様に熱心な子どもで、将来の夢は「牧師になること」でした。しかし、試練が家族を襲い、家庭が崩壊の危機を迎え、中学の時教会から離れました。しかし、主の導きで大学の時、オーストラリア、中国へと渡り、そこで奇蹟と恵みを体験し、生きた主とお会いしました。行く先々で「あなたは宣教師です」と言われ、私は「一生を主のためにささげたい」と願いました。その後、日本に帰り、聖書学校に入りましたが、主は私を社会で働くように強く導き、その後10年以上神様の声は何も私に語られることがなかったのです。私は長い主の沈黙と心の失望、その後続いた数々の試練の中で、ついに夢をあきらめ、親しい牧師に「私は献身をあきらめました」と話して間もなく、主は御声をかけられたのです。

「何しに行くの?」「わかりません」
フィリピンに行くことを決心した時、私たち自身も「何のために行くのか」わかりませんでした。クリスチャンの人たちからも「何しにフィリピンに行くんですか?」と聞かれた時には「向こうに着くまでは、正直わかりません」としか言えませんでした。実際、神様は「フィリピンに行きなさい」としか言ってくれませんでした。ですから、なおさらノンクリスチャンの友人や妻の両親への説明は大変でした。皆が決まって言うことは「子どもたちがかわいそう」でした。今考えると、その時子どもは小学校4年生と1年生になったばかり。妻も、先のわからないこのチャレンジによくついて来てくれたと思います。

主だけを見上げて
特別な支援団体の後ろ盾のない私たちは、主に祈ることだけが頼りでした。特別な信仰や賜物があったわけではありません。少しずつ宣教師として主に訓練されていったのです。
私たちは自分自身で1年分の生活費を用意しなければなりませんでした。最初は不可能に感じましたが、宣教に飛び込む前に私たちは主の奇蹟をどうしても見る必要があったのです。そのような中、フィリピンに行く直前の2007年4月に勤めていた会社の事業が閉鎖となり、出るはずのなかった退職見舞金が入り、5月にフィリピンへ出発することができました。何と家族で暮らす1年分が直前に与えられたのです。
フィリピンで聖書学校に通いながら、「何のためにここに来たのか、教えてください」と毎日祈りました。大きな犠牲を払って来たはずなのに、何もないまま数カ月が過ぎていきました。そんなある日、サンタローサ市の教会に呼ばれて訪問しました。そこは日本の一流企業が200社近く工場を持っている工業地区です。そこでジョエル牧師と出会いました。彼は日本の刑務所で主イエスと出会い、フィリピンに帰って来てから日本企業に雇われ、今は牧師もしている人でした。ある夜、彼はこう言いました。「私は日本人の救いのために『一人でいいから日本人の宣教師をここに送ってください』と何年も祈っ てきたのです。シンさん。あなたが祈りの答えの人かもしれません。」その時、私もついに主から答えをもらったのです。「あなたがフィリピンに来たのはこのためだ」と。
その後、さまざまなミニストリーが開かれていきましたが、1年後にお金が底を尽きました。日本に戻ることも考えましたが、主の答えは「フィリピン」でした。一旦日本へ戻り、4ヶ月間さまざまな教会で証しをさせていただきましたが、経済的状況は厳しく、道が開かれませんでした。「これ以上日本にいても進展がない。2~3カ月でもいられる間フィリピンで宣教をして、経済が尽きたら日本に戻ろう。」無謀な戦略にも妻はうなずいてくれました。しかし、きょうまで「かめの粉は尽きず、つぼの油はなくな」(Ⅰ列 17:16)ることはありませんでした。

今も生きている神様
宣教を始めてから3年半経ち、さまざまな試練を通らされましたが、一番つらいのはやはり子どものことです。
ある日、次男が遊んでいる時に左手を骨折しました。手首の下の部分から直角に曲がり、知り合いの医者に診てもらいました。「単純な骨折だから1ヶ月もすればつくよ」と言われたのですが、1ヶ月後レントゲンを撮ると、折れた2本のうち1本の骨が35度傾いてくっついていました。慌てて専門の医師に見せたところ、「骨をいくつかに砕いて鉄の棒を1年くらい入れるか、手術をしないならば良くて80%の機能しか回復しないだろう」という説明でした。しかも、その日は次男が楽しみにしていた9歳の誕生日でした。私と妻は泣きながら祈りました。ある夜祈っていると、「もしあなたが信じるなら、あなたは神の栄光を見る」(ヨハ 11:40)と主が語られました。ふと目を上げると、見慣れたイエス様のポスターがそこにありました。その下に英語で“Cast All Your Cares Upon Me(あなたのすべてのケアを注いでください)”と書かれています。私の心は高鳴りました。“Cast”は注ぐという意味ですが、ギプスとも訳せるのです。「あなたのすべてのケアのギプスをわたしに。」その絵で、イエス様はフィリピン人の貧しい男の子を訪ね、次男が骨折した手の部分と全く同じ所をいたわるように撫ぜていました。「いやされる」と確信した私は、次の日妻と子どもにその絵を示して「必ず主がいやしてくださる」と話しました。その日以来、次男は「神様。このけがが起こったのは、僕の手を通して奇蹟が起こり、世界中の人が主を信じるためです。感謝します」と祈り続けました。2人の息子が洗礼を受ける1週間前にギプスを外すと、医者が驚いてこう話しました。「まだ骨は傾いていますが、その横から新しい骨が1本伸びてきています。これに引き寄せられて手は完全に直るでしょう。」ハレルヤ!今、次男の手は真直ぐに伸び、完全にいやされています。

イエス様の夢
宣教は、信仰によって何を得るかより、何を捨てるかを問われます。仕事や住み慣れた場所、友人や家族を捨て、何も先の見えない所に主だけを頼って飛び込まなくてはなりません。あるフィリピンの牧師から「あなたがたはバンジー・ジャンプのような信仰ですね」と言われたことがあります。アブラハムは、約束の地や約束の子を得るために、主に従ったのではありませんでした。「アブラハムは神を信じ、その信仰が彼の義とみなされた」(ヤコ 2:23)というみことばが実現し、彼は神の友と呼ばれたのです。彼は神を信頼したので、神とともに旅に出たのです。これが宣教です。彼は主が行かれる所どこにでもついて行き、主の御声の通りに生きたのです。
主イエスはこう言われました。「わたしに仕えるというのなら、その人はわたしについて来なさい。わたしがいる所に、わたしに仕える者もいるべきです。もしわたしに仕えるなら、父はその人に報いてくださいます」(ヨハ 12:26)。宣教はイエス様の夢です。宣教地にイエス様がおられます。イエス様のおられる所どこへでもついて行く、これが宣教です。イエス様がそこに留まるなら、嫌な場所でも留まります。次の場所に移るなら、そこにいたくてもともに行きます。アブラハムは、その人生で約束のものを手に入れることはありませんでしたが、最大の報いを得ました。主との二人旅を通して、彼は神の友と呼ばれたのです。
何も分からずにフィリピンに来てから3年半、主は多くの友を与えてくださいました。伝道チーム「ジャピノーイ・ミニストリー」が与えられ、ともに働き、2009年の3月にはPJCフィリピン日本人教会が誕生しました。1年間で21人の日本人・フィリピン人が受洗し、多くの人々が日本から訪れてくださり、日本とフィリピンの間に友情と祈りの橋が架けられました。「アジアン・ハート」というNGO団体を設立し、貧困地域で給食・医療品の配給、青空教室など、イエス様の愛を届ける活動もしています。
宣教にはイエス様の夢が詰まっています。天に昇られる前、イエス様はこの夢を親しい弟子たちに託されました。彼らはイエスの友と呼ばれました。そして今、それは私たちの番です。私は一人でも多くの日本人の若いクリスチャンがこの宣教の冒険にチャレンジして欲しいと願います。たくさんのものを捨てなければなりませんが、そこには大きな報いが待っています。主イエスの友となるという報いが。



『フィリピン宣教支援会』  
ホームページ:http://www2.ocn.ne.jp/~smsa/

 

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