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聖徒の敬虔訓練⑦
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憎しみと敬虔訓練 |
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ホン・インジョン ● 長老会神学大学 実践神学教授
世の中では平和を語っていますが、人種、宗教、世代の違いのため、葛藤と戦争は耐えることがありません。この個人や集団、民族や国の間に起こる紛争の根源は憎しみにあります。憎しみという感情は「嫌い」から「憎悪」「嫌悪」へと強くなります。辞書では、憎しみの一つである「嫌悪」を「何かを不快に思い、それを強く表すこと」と定義しています。憎しみには、ただ何かを不快に思うだけではなく、嫌だから避けたいという思い、憎しみの対象に強く当たる態度や行動などもすべて含まれます。「憎しみ」の「憎」は、「心」から意味を取り、反復する、重なるという意味の「曽」から読みを持ってきた文字です。心の中に積もる恨みが憎しみだと言えます。また憎悪の「悪」を「オ」と読むときには「不快に思う、憎む」という意味ですが、「アク」と読めば「悪い」という意味になります。つまり、嫌い、憎むことが度を過ぎると悪いことになるのです。 このような感情の変化の過程は、旧約聖書のアムノンとタマルの出来事によく表れています。ダビデの息子アブシャロムにはタマルという妹がいました。タマルには異母兄であるアムノンがいました。アムノンは仮病を使ってタマルが見舞いに来るよう仕向け、彼女を犯してしまいます。最初、アムノンはタマルとの情事を周囲に知らせて結婚しようと考えていましたが、その心は変わりました。「ところがアムノンは、ひどい憎しみにかられて、彼女をきらった。その憎しみは、彼がいだいた恋よりもひどかった」(Ⅱサム 13:15)。このように、憎しみの弊害は、最初は個人の中から始まりますが、それは少しずつ広がり、殺人まで至る深刻な罪(悪)となります。新約聖書で、主は「兄弟を憎む者はみな、人殺しです。いうまでもなく、だれでも人を殺す者のうちに、永遠のいのちがとどまっていることはないのです」(Ⅰヨハ 3:15)と言われました。
聖書に出てくる憎しみ 憎しみに関して、聖書は三つのことを教えています。まず一つめは、神の人は嫌われることもあるということです。イエスは弟子たちに「もし世があなたがたを憎むなら、世はあなたがたよりもわたしを先に憎んだことを知っておきなさい。もしあなたがたがこの世のものであったなら、世は自分のものを愛したでしょう。しかし、あなたがたは世のものではなく、かえってわたしが世からあなたがたを選び出したのです。それで世はあなたがたを憎むのです」(ヨハ 15:18~19)と言われました。また、「わたしを憎んでいる者は、わたしの父をも憎んでいるのです。…しかし今、彼らはわたしをも、わたしの父をも見て、そのうえで憎んだのです。これは、『彼らは理由なしにわたしを憎んだ』と彼らの律法に書かれていることばが成就するためです」(ヨハ 15:23~25)とも言われました。世がイエスを憎むのは神を憎むことであり、聖徒を憎めばイエスを憎むことになります。神の御心通りに生きる人は、サタンの攻撃を受け、世から嫌われて当たり前なのです。ですから、使徒ヨハネはこのように教えています。「兄弟たち。世があなたがたを憎んでも、驚いてはいけません」(Ⅰヨハ 3:13)。 ダビデは神とその民を愚弄するゴリアテに義憤を感じ、それを訴えたことによって兄の怒りを買いました。兄エリアブは弟のダビデに、羊飼いなのに羊の群れを置き去りにして戦いを見に来たと言って腹を立てました(Iサム 17:27~28)。パウロはエペソで悪霊を追い出しますが、そのせいで怒りを買い、牢に入れられて苦しみました(使19章)。空中に勢力を持つサタンが今も聖徒たちを憎み、攻撃の的としていることを私たちはいつも覚えておくべきです。 二つめは、聖徒は自分の義や高慢を憎むべきであるということです。イエスは「・・・あなたがたは、人の前で自分を正しいとする者です。しかし神は、あなたがたの心をご存じです。人間の間であがめられる者は、神の前で憎まれ、きらわれます」(ルカ 16:15)と言われました。そして「しもべは、ふたりの主人に仕えることはできません。一方を憎んで他方を愛したり、または一方を重んじて他方を軽んじたりするからです。あなたがたは、神にも仕え、また富にも仕えるということはできません」(ルカ 16:13)と教えられました。私たちには、神とは違うほかの何かと比べようとする罪深い性質があります。ですから、神は偶像礼拝を忌み嫌われ、ねたまれるのです(出 20:4~6)。 三つめは、聖徒は憎しみを抱いてはならないということです。憎しみに関わる感情の中に、嫉妬や恨みなどがあります。カインは神がアベルのささげ物を受け取り、自分のささげ物を受け取らなかったことに激しく怒りました。カインはその怒りに負けてアベルを殺す罪を犯しましたが、その本心は、神に認めてもらいたいがための嫉妬と恨みのほうが先であったと考えられます。 ヨセフも同じでした。父ヤコブは12人の息子のうちヨセフを最も愛しました。それを見て、兄弟たちはヨセフを憎み、ヨセフと穏やかに話すことができませんでした(創 37:4)。ヨセフが夢の内容を話すと、兄たちはヨセフをさらに激しく憎みました。「兄たちは彼に言った。『おまえは私たちを治める王になろうとするのか。私たちを支配しようとでも言うのか。』こうして彼らは、夢のことや、ことばのことで、彼をますます憎むようになった」(創 37:8)。それでもヨセフがまた夢を話すと、兄たちは憎しみを越え、ヨセフをねたむようになりました(創 37:11)。このように、憎しみは恨みやねたみへと変わります。憎しみが先であれ、ねたみや恨みが先であれ、これらの感情はともに作用する傾向があります。憎しみからねたみや恨みへと、またはねたみや恨みから憎しみへと移っていきます。ですから、聖徒は憎しみの根を残してはなりません。なぜなら、それが育つと自分と家族と周囲の関係を破壊するからです。 また、私たちがこの世から憎まれるとき、イエスの約束を思い出してください。「わたしの名のために、みなの者に憎まれます。しかし、あなたがたの髪の毛一筋も失われることはありません」(ルカ 21:17~18)。私たちの愚かさ、高慢さ、不信仰のために憎まれたのなら、悔い改めて主に立ち返らなければなりません。しかし、イエスに似ていく過程で憎まれたのなら、それは聖徒の勲章として受け入れなければなりません。
礼拝を通して悪を憎む 聖徒は神に立ち向かう存在を断固として憎むべきです。サタンは世を愛し、神を憎むように絶えず誘惑します。サタンは、家族や大事な使命、ビジョンや夢ですらも用います。ヨシュアはその晩年にイスラエルの民に「もしも主に仕えることがあなたがたの気に入らないなら、…あなたがたが仕えようと思うものを、どれでも、きょう選ぶがよい。私と私の家とは、主に仕える」(ヨシ 24:15)と宣言しました。偶像を憎み、世を憎むということは、神に仕えることを選ぶという意味です。結論として、ヨシュアは「あなたがたは主に仕えることはできないであろう。主は聖なる神であり、ねたむ神である。あなたがたのそむきも、罪も赦さないからである」(ヨシ 24:19)と言い、神は民が偶像を選んだ結果を放ってはおかれないと警告しました。 では、どのようにすれば神に敵対するものを憎み、神の側に立つことができるのでしょうか。サムエルはエッサイの子たちの中から長男エリアブを見て、神に選ばれた者として油を注ごうとしました。すると神は「…彼の容貌や、背の高さを見てはならない。わたしは彼を退けている。人が見るようには見ないからだ。人はうわべを見るが、主は心を見る」(Ⅰサム 16:7)と言われました。私たちはこの世で富よりも名声を、銀や金よりも愛顧を選ばなければなりません(箴 22:1)。さらにもう一歩進み出て、悪を忌み嫌い、善を選ばなければならないのです。 イエスはマルタとマリヤに、「しかし、どうしても必要なことはわずかです。いや、一つだけです。マリヤはその良いほうを選んだのです」(ルカ 10:42)と言われました。イエスの前に座ってみことばを聞こうとしたマリヤが、最良の選択をしたということです。礼拝は英語で「worship」または「service」ですが、それには最も価値のあるものに奉仕するという意味が含まれています。神に仕えることを選ぶことは礼拝を回復することなのです。ですから、詩篇の著者は「主を恐れる人は、だれか。主はその人に選ぶべき道を教えられる」(詩 25:12)と語っているのです。
愛で心の憎しみを消す 憎しみに打ち勝つためには、愛を回復しなければなりません。憎しみは争いを引き起こすだけではなく、私たちの目をくもらせます。「兄弟を憎む者は、やみの中におり、やみの中を歩んでいるのであって、自分がどこへ行くのか知らないのです。やみが彼の目を見えなくしたからです」(Iヨハ 2:11)。 憎しみを乗り越えるには、それを隠さず、認めなければなりません。私たちを傷つけた加害者を憎むのは当たり前です。神も悪を忌み嫌われ、ご自分の民が偶像礼拝に陥ったときにはねたまれます。ですから、私たちも憎しみのために罪責感を感じる必要はありません。心に生まれた憎しみをなくすには、憎しみの存在を認識し、それを赦しと愛に代えなければなりません。憎しみを乗り越えるための愛の初段階は、相手のそむきの罪や咎をおおい、同じことをくり返して言わないことです(箴 17:9)。 憎しみを越え、兄弟愛へと変わっていくのが神の愛の始まりです。「神を愛すると言いながら兄弟を憎んでいるなら、その人は偽り者です。目に見える兄弟を愛していない者に、目に見えない神を愛することはできません」(Iヨハ 4:20)。去れ、憎しみよ。来たれ、愛よ。
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