聖徒の敬虔訓練②

   感謝すること
 

感謝すること

ホン・インジョン ● 長老会神学大学 実践神学教授

ある大学の謝恩会でのことです。卒業前の学生たちが教授たちを食事に招待し、感謝を表しました。そして柿4つ(韓国語で「カムサ」つまり「感謝」の意味)をお土産として用意しました。教授たちへの感謝の気持ちをユーモアを交えて表したのですが、これは様々な論争を巻き起こしました。
事実、謝恩会というのは「恩師の恵みへの感謝を表現する集まり」です。そして、感謝の対象への尊敬と配慮が優先されるべきで、感謝の気持ちがこもっていなければなりません。感謝とは、感謝をする人がいて、その感謝を受け取る対象が必要です。
このように、感謝を表現するのは簡単ではありません。日常生活の中で感謝を実践するには、どうすればよいのでしょうか。

聖書の中の感謝
旧約聖書において、感謝に関する最初の言葉は、レビ記7章12節から15節に登場します。主にささげる和解のいけにえの教えを説明しながら、「もし、それを感謝のためにささげるのなら」(12節)、「和解のための感謝のいけにえの肉は」(15節)、など、感謝のいけにえやささげものはどのようにすればよいのか、教えています。旧約聖書では「感謝」の単語は、ささげものに関連しています。つまり、神からの恵みを喜びによってお返しするのが感謝のいけにえなのです。
新約聖書では、イエスも神に感謝をささげました。神の知恵を賢い者や知恵のある者には隠して、幼子たちに現してくださったことを感謝しながら「天地の主であられる父よ。あなたをほめたたえます」(マタ 11:25;ルカ 10:21)と祈られました。そして五つのパンと二匹の魚の奇蹟によって5千人を食べさせたときにも、感謝の祈りをささげました(ヨハ 6:11)。
イエスは死んだラザロを生き返らせる前に、このように祈られました。「イエスは彼女に言われた。『もしあなたが信じるなら、あなたは神の栄光を見る、とわたしは言ったではありませんか。』そこで、彼らは石を取りのけた。イエスは目を上げて、言われた。『父よ。わたしの願いを聞いてくださったことを感謝いたします」(ヨハ 11:40~41)。イエスは死んだラザロを墓から呼び出される前、神の栄光が現れることを知り、事前に神に感謝をささげました。
ツァラアトに冒された10人がイエスにあわれんでくださいと願ったとき、イエスは祭司のもとに行ってからだを見せるように言われました。彼らは祭司のところに行く途中いやされましたが、イエスのところに戻って来て感謝をしたのはたった1人でした。その時イエスは「『十人きよめられたのではないか。九人はどこにいるのか。神をあがめるために戻って来た者は、この外国人のほかには、だれもいないのか。』それからその人に言われた。『立ち上がって、行きなさい。あなたの信仰が、あなたを直したのです』」(ルカ 17:17~19)と言われました。恵みを受けた人の感謝は当然であり、それは全き救いをなす信仰であると言われました。

感謝を日常化する訓練
ツァラアトに冒された10人がいやされ、たった1人がイエスのところに戻って来て、ひれ伏して感謝をしました。数字的には、人間は10人に1人が感謝すると見ることができます。しかし、実際には人間はこれよりもさらに感謝をしません。シカゴのノースウェスタン大学の卒業生に、エドワード・スぺンサーという人がいました。1860年9月8日に、嵐が来たとき、キャンパスの横のミシガン湖で旅客船が遭難し、187名の死者を出す大惨事となりました。その時、スペンサーは陸地から800m離れた遭難現場に16回も往復し、17名を救助しました。そして身体に後遺症が残ってしまいました。彼は車いす生活をして81歳で亡くなりました。亡くなる1年前に新聞記者がスペンサーを訪れ、インタビューをしました。「記憶に最も残っていることは何ですか。」スペンサーは「私が救助した17名のうち、私の所に感謝を表現しに来た人は1人もいませんでした。とてもむなしくなります」と答えました。本当に人間は感謝を知らず、感謝に慣れていない存在であることは間違いありません。
私たちは永遠に神に感謝をささげるべきです。詩篇の著者は「私のたましいがあなたをほめ歌い、黙っていることがないために。私の神、主よ。私はとこしえまでも、あなたに感謝します」(詩 30:12)と告白しました。そのため、感謝の訓練は敬虔訓練なのです。使徒パウロは「それゆえ、彼らは神を知っていながら、その神を神としてあがめず、感謝もせず、かえってその思いはむなしくなり、その無知な心は暗くなりました」(ロマ 1:21)と宣言しました。神に栄光と感謝を帰さない人生は、心の庭園にむなしさや無知、暗やみという雑草が生い茂ることになります。
また、感謝には水準があります。イエスはパリサイ人と取税人の祈りのたとえ話を用いられました(ルカ 18:9~14)。「パリサイ人は、立って、心の中でこんな祈りをした。『神よ。私はほかの人々のようにゆする者、不正な者、姦淫する者ではなく、ことにこの取税人のようではないことを、感謝します』」(11節)。パリサイ人は神に栄光をささげるのではなく、自分の義と自慢を羅列しただけでした。他の人と比べた自分の優秀さのゆえに感謝するというのは、神の御前で罪人であることを忘れたことです。
イエスに香油を塗った女に批判が集まると、イエスは金を借りていたふたりの者のうちでよけいに赦してもらった人が金貸しを愛するようになると言われました(ルカ 7:40~43)。自分が罪人のかしらであることを悟り、神の恵みを大きく経験した人は、より多く感謝するのです。
感謝することができない本質を持つ私たちが感謝を日常的にする霊的習慣を持つためには、どうすればよいのでしょうか。
一つめに、感謝の祈りと賛美で1日を始めることです。ヨハネの黙示録では、すべての御使いが「アーメン。賛美と栄光と知恵と感謝と誉れと力と勢いが、永遠に私たちの神にあるように。アーメン」(7:12)と神を礼拝しました。きょうを始めるにあたって、感謝の賛美を神にささげるのです。
ダニエルは、日に3度ひざまずき、彼の神の前に祈り、感謝していました(ダニ 6:10)。ダニエルは神に祈り感謝する敬虔の生活を禁じる文書に王が署名したのを知りながらも屈しませんでした。そのために、獅子の穴に投げ込まれましたが、神が守ってくださいました。1日を感謝の賛美で始めて、3度祈ることによって、さらに感謝をささげる人になることができます。
二つめは感謝の日記を書くことです。アメリカで影響力のある女性の一人であるオプラ・ゲイル・ウィンフリーは、幼いとき性的虐待を受けたり、離婚経験があったりなど、険しい人生を送りました。幼い頃、彼女は友だちがいないために、犬に聖書を読んであげたと言います。そんな彼女は感謝の日記を書き続けています。それは彼女が痛みを克服するための秘訣かもしれません。その日の出来事の中で、感謝すること5つを書き記すのです。大きなことでも特別なことでもなく、日常で起きる小さなことです。
使徒パウロはテサロニケ教会の聖徒に「すべての事について、感謝しなさい。これが、キリスト・イエスにあって神があなたがたに望んでおられることです」(Ⅰテサ 5:18)と言いました。平凡なことに感謝するのが神の御心です。詩篇の著者は「聖徒たちよ。主をほめ歌え。その聖なる御名に感謝せよ」(詩 30:4)と勧めました。感謝の日記を書くことは、感謝を覚えておくことです。一日中、神がくださることに対する感謝、危険から守ってくださることへの感謝などを探して書き記すことが訓練になります。
三つめに、感謝の言葉を生み出すことです。パウロは「また、みだらなことや、愚かな話や、下品な冗談を避けなさい。そのようなことは良くないことです。むしろ、感謝しなさい」(エペ 5:4)と勧めました。他の人を攻撃する下品な冗談や見下す言葉は溢れていますが、私たちは「むしろ」感謝する言葉を使わなければなりません。ある詩人は「感謝する心で言葉の家を築くことができますように」と祈りました。感謝する心があるとき、美しい家を築くことができるのです。また、私たちは感謝が溢れる言葉を生み出さなければなりません。感謝の言葉を生み出すことは簡単なことではありませんが、これまで私がノートに書き記した「感謝」の表現をいくつか紹介します。
「それでも、感謝します」→よい結果ではなかったけれど、結果に関係なく感謝します
「しかし、感謝します」→感謝できない状況でも意志によって感謝します
「そのような理由で、感謝します」→過程や結果に関係なく結論的に感謝します
「そうであっても、感謝します」→心の望みや願い通りにならなくても感謝します
「そうでなくても、感謝します」→望み通りにならなくても私のための神のご計画と善いことに信頼し感謝します
「それにも関わらず、感謝します」→感謝できない状況でも、私の知らない神の摂理があることを信じ感謝します
以上のように、感謝の言葉を表現すればするほど、さらに豊かになります。ですから聖書は、「絶えず神に感謝しなさい」(Ⅰテサ 2:13)、「いつも神に感謝しています」(Ⅰコリ 1:4)、「あふれるばかり感謝しなさい」(コロ 2:7)と言っています。ある研究結果によると、幸福(感)というのは感謝の程度と密接に関連していると言います。落ち込んでいる人は、感謝がほとんどないため、無理にでも感謝を探して表現すれば憂うつが減るという報告もあります。ましてや、神の人が主の恵みに感謝して礼拝をささげるならば、その人に臨む祝福ははかりしれないでしょう。「蛍の光に感謝する者には星の光が与えられ、星の光に感謝する者には月の光が与えられる。また月の光に感謝する者には太陽の光が与えられ、太陽の光に感謝する者には創造主である神がその者の光となってくださる。」

 

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